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「ほん、とに……Aなん…？」
「自分が捨てた女にスイートルームなんてすごいねぇ。
捨てた女に『俺のものになってよ』なんてすごいねぇ？」
「…」
「私はもう、あんたのモノなんかになるレベルじゃない。」
もう私は、あなたが離したくなくなるほどの女になってしまったのだ。
私は大きな扉に手をかけた。
「待って…！」
振り返れば、立ち上がってこちらを見る彼と目が合う。
「ほんまに、自分勝手やって分かってるけど…！！
もう1回、…俺を見てくれへんかな
Aためだったら何だってする
A以外の連絡先だって全部消す
Aしか見てへんって証明し続ける…！
だから…だから…！！」
私の口角はまた、不気味に上がる。
私の笑顔が肯定の意だと捉えたのか、少しだけ嬉しそうな顔をした。
「廉……」
そう、その顔、それがずっと欲しかったの。
私に会いたいと願って
私を誰にも渡したくないと焦って
私に必死になって
私しか見えなくなったその顔。
その顔を見るためにここまで頑張ったの。
「それ、言ってて悲しくならない？」
「あ、ちょ、待てって！」
「もうお前に使う時間なんて無いの、分かる？
せいぜいそのレベルで幸せになりなよ。
私はもっと上で幸せになるから。」
強めに閉めた大きな扉。
行きとは違って1人で乗り込んだ密室の箱の中で、私は不本意に涙を流した。
声も出さず、しゃくり上げることもせず、ただ頬を涙が伝い続けた。
「………お疲れ、ワタシ。」
心のどこかで、彼は私に気付いているのでは無いかと思っていた。
本当は私だと気付いている上で私を抱いて、変わった私を抱いているのではないかと思っていた。
それがどうだ。
あいつは、何度も抱いたはずの私を、覚えてすら、いなかった。
私は彼を引きずった。彼は何も思っていなかった。
まるで、初対面だった。
でも、もう、何を言っても終わりだ。
____私の目標は達成したのだから。
ホテルを出て上を見上げると、そこには済んだ青い空が広がっている。
そんな時頭に浮かんだのは、うちに遊びに来る、と即答して笑っている岸の顔だった。
全てが終わり、少しは澄んだ私をどうにも見て欲しくなった。
私は携帯を開いてある人物に電話をかけた。
「あ、ごめん。これから行ってもいい？」
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作者名：ash
| 作成日時：2020年1月20日 21時
