可愛くねぇ奴。 (ページ42)

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「ご指名ありがとうございます」

目の前にたどり着いて私はそう声をかけた。
すると彼は、私を見て固まった。

「お客様…？」

「あ、ごめんなさい……あまりに綺麗で…」

「まぁ、嬉しいですありがとうございます」

「あの時より…あの、もっとお綺麗です…」

「覚えててくださったんですね、永瀬さん」

「名前……覚えててくれたんですね」

「もちろんです」

スーツのジャケットを脱ぎ、ワイシャツにネクタイのスタイルで
耳には2つのシルバーピアス。
指には少しだけゴツい、形が不規則なシルバーリング
長い手足に、整った顔
グレージュカラーの髪の毛先を少し遊ばせたヘアセット

そのスタイルは再会した時と変わらない。

「永瀬さん…」

「はい…」

「右手の指輪、外してくださったんですね」

そう言うと、彼は右手を左手で摩る。

「わざわざ大切な女性とのペアリングなのに、外させてしまってごめんなさい？」

そう申し訳なさそうに言えば、焦ったように「全然大丈夫です」と言う。

「店の者から聞きました…この1週間毎日お店に来てくださっていたと。大切な女性は大丈夫ですか？」

また申し訳なさそうに言えば、自虐的に笑って「実は…別れたんだ」と言う。

私の体温は、まだ1滴もアルコールを摂取していないのに、内側からじんわりと上がった。

黒い私が口角を上げてしまおうとするのを抑える。

「私のせい……ですよね…」

「違います…！
…俺が…ずっと源氏名さんのことを考えるようになってしまって、彼女の事を考えられなくなってしまったからで…」

ダメっすね俺、とまた自虐的に眉を下げて笑う彼の手を、私は、そっとすくって撫でる。

「連れ添った大切な女性より、ただのホステスを選んだことは否定されることもあるかもしれませんが、私は……とっても、嬉しいんです」

目をぐっと見開いて、私から目を逸らせない彼と目を合わせて、そっと逸らす。

「飲み物もちょうど来ましたし、よろしければ乾杯しましょ？」

アルコールの入ったグラスで小さく乾杯をして、口紅のついた飲み口を親指で淑やかに拭う。

「せっかく初めてこうして、席をご一緒できましたし、今日はたっくさん永瀬さんのお話聞かせてくださいね？」

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