可愛くねぇ奴。 (ページ29)

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junta ▷▷

「A、家着いたで」
「ん…」

暗証番号を入力して重い玄関の扉を開ける。

靴を脱いで、お姫様だっこのまま寝室のベッドにゆっくりとAを寝かす。
Aの靴を脱がして玄関に置いてから、また寝室に戻れば少し肌寒そうに縮こまっていた。
今度は上着と小さい顔の横に垂れているピアスを脱がし、布団をかけてあげた。

「…」

高級マンションの大きな部屋と反比例した少し狭めのベッドの端に腰掛けて、すやすやと眠るAの頭を撫でた。
部屋は大きいが家具は収入に対して庶民的で、それがまたこいつの良さだったりする。

「…どうしたん、お前が酔うなんて。ん？」

答えが返ってくるわけがないのに俺は語りかけた。

「…」

今日は珍しくAが酔った。
普段は驚くほど酒に強く、俺と並ぶくらいには酔わないAが酔った。

営業時間が終了した後、なかなか更衣室から出てこないAが心配になって部屋に入ると、帰る用意はギリギリ済ませた様子のAがドレッサーの前で眠っていたのだ。

声をかけ、起こしてみたものの、明らか酔い潰れていて俺は思わず驚きの声を上げた。

そして、冒頭に戻るわけだ。

「…あいつしかおらんよなぁ」

Aがこうなった理由で思い当たるのは、 “ あいつ ” の存在だった。
今日は “ あいつ ” が来店していた。
しかし、今まであのお客様が来店してもこんな風に酔い潰れることなんて1度も無かったのだ。

「悪い、風呂借りるで」

今日はここに泊まろう。
本当は帰った方がいいのだろうが、何となく1人にしたくない。

こいつは店だと誰よりも色気のある、妖艶な顔をするし、会社では色気と柔らかさを合わせたような顔をして、使い分けるのが上手いくせに、実は寂しがり屋だったりする。

自分を作り上げるのが上手過ぎて、ベースの自分を他人に見せることをしないのだ。

俺がそれに気付いて、Aに伝えた時
そうなったのは『あの人を見返すため』とAは言った。

外見だけじゃなく、中身まで別人になってまで “ あいつ ” を追い続ける姿に、たまに、俺の心が痛くなった。

「おやすみ」

頬に手を当てて、その柔らかい頬を親指で数回撫でて、俺は寝室を出た。

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