可愛くねぇ奴。 (ページ28)

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「お店の方が、こういう廊下も歩かれるんですか…？」
「こちらには中間の招待でいらした訳ではなさそうですね」
「招待…？」
「いうならば、このカーペットが黒いところは全て私の部屋のようなものです。だから私は自由に歩くことが許されています」

目を逸らしたくてたまらないのに、まるで固められたように逸らせなくて痛い。
心が、痛い。
色んなことが頭の中に蘇ってきて痛い。
頭が、痛い。

「自己紹介が遅れました。申し訳ありません。…初めまして、」

その目は、初めてのものを見た時の目。
あなたは何も、気付いてないことに気が付いた。

「この店のNO.1をさせていただいております____ 」

生まれ変わった私と貴方は、初めまして。

「源氏名、と申します。」

「NO.1…もしかしてシークレットの…」

「はい。…ここは招待が無ければ来ることができませんが、」

「あ、ごめんなさい…実は入り組んだ所まで入ってきてしまって…、迷ってしまって」

「ではボーイに案内させますからこちらで少々お待ち下さい」

「すみません…ありがとうございます」

「いえ、お気になさらず」

私は丁寧に頭を下げてからNO.1専用の、
お客様達が待つVIPルームの分厚く重い扉を開けた。

「あの…！」

ゆっくりと振り返ると彼は私だけを見つめている。
その、懐かしい目で。

「もしよかったら…俺のこと、覚えていてくれませんか」

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「えぇ、もちろんです。1度お会いしたお客様のことは忘れません。」

「…永瀬廉、俺の名前です」

「永瀬廉さん」

「はい、」

「では、永瀬さん」

「はい…」

忘れたことなんて、ただの1秒も無い名前なのに
どうしてこんなにも懐かしく感じるのだろうか

あの時の愛は憎しみへと変わってしまったのに
どうして“ 好きだった ”なんて泣きそうになるのだろうか

「次、会いにいらして下さる時は___ 」

ただ１つ、懐かしくもなんとも無い見慣れないモノ。
それが私の感情をまた、黒く染め上げる。

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“ その右手の指輪は外してきてくださいね ”

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私はその重い扉を閉めた。

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