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定時を長い針が指した。
私はデスクの上を片付け、データを保存したことを確認してから、職場の人に挨拶をしながら職場を出た。
エレベーターホールで下に降りるエレベーターを待つ間に腕時計をチラリと見る。
今日も遅れることなくいつもどうり店に着きそうだ。
『おー、お疲れ』
「あ、お疲れ様」
革靴の音が聞こえると思ったら、エレベーターホールに現れたのは定時であがれた様子の岸だった。
何とも丁度良いタイミングで下に降りるエレベーターがやってきて扉が開く。
それに乗り込んだのは私と彼の2人だった。
『…』
「…」
『…』
「…」
『…これから出勤？』
「うん、そう」
『何時までなの？』
「うちの店は23時に閉まるの」
『え、思ってたより早い…』
「ふふ、でしょ？うちの営業時間は短いの」
途中に誰も乗らなかったエレベーターは、会話の終わりに合わせたように、また丁度良いタイミングで1階に着く。
会話は無いが、何となく2人並んで会社を出た。
『行きも帰りも、気をつけてな』
「ありがと、岸も気をつけて帰ってね」
『おぅ、じゃあまた月曜日』
「そうだね、お疲れさま」
お互いに小さく手を振って、会社の前で別れる。
私はタクシーを拾って乗り込んだ。
店の住所を伝えてから、タクシーの中で後ろを見ると、ちょうど横断歩道を渡っている岸が見えた。
“ 行きも帰りも、気をつけてな ”
誰にも夜の仕事のことを伝えていなかったから当たり前だが、会社の人に気遣った声をかけてもらったのは初めてだった。
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作者名：ash
| 作成日時：2020年1月20日 21時
