可愛くねぇ奴。 (ページ22)

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「あ、あの岩橋先輩」

会話が止まって食べることに集中していると、緊張を含んだ声がどこからか聞こえてきて、私が呼ばれたわけではないのに顔を上げた。
するとほぼ同時に同じように顔を上げた岩橋くんと目があって、見つめあったままふたりして頭にハテナマークを浮かべた。

「お、お昼休みにすみません…」

ペコペコと頭を下げながら顔を真っ赤にして1人の女の子が、お財布を持って立っていた。
たしかこの子は…、2こ下の階の部署の子だった気がする。名前までは分からないけれど。

「うん、どうしたの？」

岩橋くんはサンドイッチを置いて、おしぼりで手を拭きながら彼女に顔を向けた。
私は構わず食事を続けることにした。

あぁ、この子は岩橋くんが好きなんだろうなと勝手に思いながら。

「ぁ、えと…都合がつく時でだ、大丈夫なので…少しお話しする時間いただけませんか…」

ちらりと一瞬、視線だけ彼女に移すと彼女は先ほどよりも顔を真っ赤に染めていた。

「相談とか？」
「え？あ、は、はい…そんなところ、です…」
「たっぷり時間とれたほうがいい？」
「あ、いえ、短くて済むと思います」
「そっか、うん、分かった。都合のつく時連絡するから、連絡先教えてもらっていい？あ、お名前は？」

名前も知らなかったのか。
名前も知らないけど相談。
それはもう、ほぼ確実に告白だろう。

「ん、畠山さんね。」
「はい…」

名前を確認し、岩橋くんは胸ポケットに携帯をしまい、未だ緊張で下を向いたまま固まっている彼女の顔を覗き込んだ。

「ひっ、」
「お昼休憩なくなるよ？ご飯食べな？」
「は、はい…！お食事中にし、失礼しました！」

彼女は私にも深くお辞儀をして小走りで去っていった。

「…貴重なAさんとの時間なのに。」

そう呟いて、頬を膨らませた。

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