可愛くねぇ奴。 (ページ17)

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『うん』

私は窓の外に目を向けた。
どうも岸の方は見れなくて。

「浮気相手は通ってたキャバクラのうちの1軒の人だった」

契約を交わした岸だって、いい人の岸だって、引いてしまうかもしれなくて。
珍しく、少しだけ怖かった。

「すごい悲しかった、すっごい悔しかった。
あの人はとても不器用だったのに。」

私のことが好きで、どんな時も一緒にいたがって
何時だろうと会いにきた。断るなんてことはなくて。

「…不器用に見えてすごく器用な人だってそこで初めて知った
何年も付き合ってたのに初めて知った
私と同時進行で何年もその浮気相手とも付き合ってたなんて知らなかった」

岸は何も言わない。

「…あまりに悔しくて、あの人の手の届かない女になろうって決めた

見た目も、地位も、財力もあの人より上に立って後悔させてやろうって決めた

住む世界が違うって言ってやろう、って」

簡単に言えば、………見下してやりたいのだ。
思い切り鼻で笑ってやりたいのだ。

「私が今働いてるお店は元彼が接待で使ったり、1人でも行く何軒かのうちの1軒なの。だから不定期で来るの」

窓に反射して映る、あいつの話をする自分の目は光を失っていた。

「あの人、お店に私がいることに気付いてないの。化粧も髪型も体型もだいぶ変わったからかな
だからあの人に指名してもらって、いつか絶対にまた惚れさせて今の彼女と別れてもらうの
それで…お前みたいなレベルの低い男なんてお断りなんだけど、って捨ててやろうって。

それが働き始めた理由。…嫌な女だよねぇ、はは」

静かなタクシーの中で自虐的に笑う。

『…びっくりしたけど、すげぇな。俺ならショック受けて終わりだよ。』

反対を向けばその大きな目と目が合う。

『復讐してやりたいって思って、そんだけ自分を変えられるってすげぇよ』

教えてくれてありがとう、と彼は言葉を続けた。

『昼間の仕事もあるし、あんま無理すんなよ？』
「うん」
『てかどのくらい働いてんの？』
「週3か4。土日以外でね？土日は休ませてもらってる。」
『週3か4？！過労で倒れるってそれ…』
「5、6年続けてるけど倒れてないから大丈夫w」
『よくバレなかったよな…』
「夜の職業の人は嘘が上手いのよ？w」

いつの間にかタクシーの中はまた、明るい雰囲気を取り戻していた。

『まぁ無理はすんなよ』
「うん、ありがと」
『俺も店行っていい？w』
「はぁ？w絶対来ないでw」

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