可愛くねぇ奴。 (ページ14)

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仕事を定時までに終わらせて会社の入り口に向かう。そこにはまだ彼はいなかった。

『Aさんっ』
「あ、お疲れ様です」
『ごめんなさい待たせて』
「いえいえ！私もたった今着いたところです」

会社を出て右に真っ直ぐ歩いた先にあるチェーン店の飲み屋に私達は入った。

賑やかな店内で向かい合って座る。

一通り注文を済ませ、料理や飲み物が揃ったところで、私達は控えめに乾杯をした。

「…」
『…』

グラスを置いて、夜の姿を知られた私と、とんでもない事実を知ってしまった岸さんの間には沈黙が流れた。
賑やかな店内で、こんなにも静かなテーブルはここくらいだろう。

「あの」
『あ、はいっ』

「…秘密にしてくれて、ありがとうございます」

岸さんにバレてから2週間ほど経っている今も、この会社に変化は無い。
つまりそれは彼がしっかりと秘密にしてくれているということだ。

「…まぁその、アレです。
岸さんが予想した通り、私は今の会社の他に、夜はホステスとして働いています」

本当は「あれは嘘なんです」だとか、適当な事を言って誤魔化すこともできたかもしれない。

もしかしたら岸さんがとんでもなく口が軽くて悪い人かもしれないのだから。

でもなぜだか分からないけれど、彼なら大丈夫だという確信の無い自信があった。

そう思わせてしまうのが彼の凄いところだとも思う。

『…』
「ごめんなさい、どう反応したらいいか分からないですよねw」

そう笑ってお酒をぐいっと飲む。

『正直なこと言っていいですか…』
「ええ、もちろん」

『そりゃビックリしました。ビックリしましたけど…なんか、納得した自分もいます。』

「え？」

固い顔をしていた岸さんの顔が少しだけ柔らかくなる。

『なんていうか……話してて他の人とは違いましたから』

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