可愛くねぇ奴。 (ページ11)

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「お先に失礼します」

18時。
手早く荷物をまとめ仕事を切り上げる。
化粧室に入り、慣れた手つきで化粧を直す。

「よし、行こ。」

会社を出て、急いでタクシーに乗り込む。
お客さんの田中さんが待つ店名を伝えて車は動き出す。

今日は運良く道がどこも空いていた。
あっという間に着いてお店に入るとカウンターに座る田中さんが私を見てニコリと笑った。

「ごめんねぇ我儘言って」
「いえいえ全然大丈夫ですよ」

隣に座って軽いカクテルを注文した。

「ドレス以外の源氏名ちゃんはなかなか見慣れないね」
「あはは、なかなか見れないから今ちゃんと見といた方がいいですよ？」

目の前に置かれたカクテルグラスを早速持って、田中さんのグラスとそっとぶつける。

「19時30分くらいまででしたよね？」
「うん」
「もっと早く来れたらよかったんだけど…ごめんなさい」
「いいんだよ、無理言ったのは僕なんだから」
「でも…お代もかさむのよ？」

「源氏名ちゃんとの時間になら幾らだって払うよ」

田中さんは私が夜の仕事を始めて、最初のお得意様だ。年齢は42。
まだまだ若いがその役職は大手企業の社長だ。
結婚はしておらず、私との時間をとても大切にしてくれている。

「ほんっとに綺麗だね」
「もう、それ会うたび言うんだから」
「毎日言っても足りないよ」
「ふふ、ありがとうございます」

時間はあっという間に過ぎ、気づけばもう田中さんは帰る時間になっていた。

「源氏名ちゃん、はい」
「はい、いただきます。ありがとうございます」

渡される白い封筒。

「確認させていただきますね」

カウンターの下でこっそりと枚数を数えていく。

「え、ちょ、田中さんっ」
「んー？」
「これは多すぎます…！」
「2人きりで会ってくれたお礼だよ」

白い封筒には本来いただく値段に、50万ほどプラスされた金額が入っていた。

「でも…！」
「源氏名ちゃん、僕はもう行かなきゃ。今日のタクシー代だと思って？」
「これからお店に戻るのだって5000円かからないですから…っ」
「いいのいいの、ね？」

そう押し切り、田中さんは帰っていった。

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