全てを捨てて、ここに来て (ページ2)

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21:00

1本道に入り込んだ先に、しっとりと灯の付く1軒のBAR

しっぽりと深い茶色で揃えられた店内に
グラスを磨くマスターが1人。

マスターの背後にはカラフルなリキュールやらがズラリと並んでいる。

“今日は何を飲まれますか？”

ひっそりと佇むこのBARは常に満席で
ゆったりと流れるBGMが時を静かに流していく。

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『きゃぁ…っ』

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開店して1時間ほど経っただろうか。

店の関係者扉から出てきた男に、席を埋めている着飾った女性達が黄色い声をあげた。

一際目立つ整った小さな顔
すらりと長い手足
フンワリとセットされた茶色い髪
彼を包む甘めな香水の香り

その男を、今か今かと待つ女性達でこの店は溢れている。

『こんばんは』

一言声を掛けられた女性はみるみるうちに赤面し、その様子を見た他の女性客は

“今日も見てもらえなかった”

と、がっくりと肩を落として店を出る。

男が一言声をかけると店内は

マスター、男、選ばれた女性

の3人になる。

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『こんばんは、俺、小瀧望っていいます』

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小瀧は百発百中だ。

と、いうかこの店に来る女性は小瀧と “ソウイウコト” をしたいがために来る。

小瀧は毎晩1人だけ声を掛ける。
1日1人限定。
しかし夜が明けて朝が来れば
もう2度と関わることはない。

それでも女性の列が途切れる事はないのだ。

「なんか飲むか？」
『うん、ありがと』

閉店中の午前のBARに帰ってくる望はいつも変わらない。
まるで何もなかったように帰ってくる。

マスターとしては望の体や、女性達からの嫉妬など、いろいろ心配事は多いが
正直に言うと彼のおかげで、毎日毎日沢山の女性が酒を1杯頼んでいくから、大幅な黒字の利益が出ている。
その面ではありがたいと思う気持ちもある。

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でも、そんな変わらない毎日は、ある日を境にぐるりと変わったんだ。

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