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「ねえ、知ってる?」
「…豆柴?」
「え?」
「ごめんなんでもない」


てっきり彼がボケてきたのかとおもったのだがどうやら違ったみたいだ。豆柴とか思った自分がアホらしい


「桜の花びらの落ちるスピード」
「ああ、秒速5センチメートルね」
「うむ。映画を見た事は?」
「無いけど、どうしたの急に」
「見ようかなと思って」


ジャーン、と彼はTSUTAYAの袋を掲げる


「山本が角川のコラボでオススメしてたから単行本を読んでみたら、映画を見たくなった」
「ガッツリハマってるじゃん」
「そうとも言う」


彼がBluRayをセットしている間に珈琲を淹れる。彼が珈琲は絶対にこれ!と譲らなかったそれの濃く深い香りが室内を満たした


「ん、珈琲淹れてきたよ」
「ありがとう」


お茶請けに昨日買ったケーキを持ってきて、再生ボタンを押した




ーーーー『ねえ、来年も桜…見れるといいね』


転校が決まってしまった少女と、主人公の両片想い。小学生だった彼らは無力で、何も出来ないが、ずっとお互いを想い続けた


『きっと、この先も大丈夫だと思う、絶対!』


でも、月日は無情に過ぎ去る。お互いを想うだけでは恋愛は成立してくれない


『ーーーーいつかまた、一緒に桜を見ることができると
私も彼も、なんの迷いもなく そう思っていた』


社会に未だ馴染めずにいる主人公と、新しく生活を始めた彼女の世界は、もう交わらないーーーー



涙が、零れていた。いくら相手を想っても、永遠を感じても、どこにも「来年も同じだ」なんて確証はないのに


「『いつかまた』って言葉狡いよなぁ」
「そう?僕は素敵だと思うけどな」
「えぇ?だって、そんな不安定で不確かなもの、信じられないじゃん」
「それも含めて、だよ」
「え?」
「そもそも恋愛なんて不確かでなんぼのもんなんですから、『不確かさ』を信じれるって、素敵だと思いますよ」


彼がぎゅっと俺の体を抱き寄せた


「『またいつか』って僕が言ったら、福良さんは信じてくれますか?」


「……そうだねえ、1回だけ、信じてあげる」


1回だけ!?とはぶてる彼の頭を優しく撫でる


「うそうそ。何回でも信じるから、絶対に叶えに来てね」

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作者名:めろんぱん | 作成日時:2020年12月10日 2時

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