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「明後日には退院していいって。なんか拍子抜けだね」
「そうだな」
本来はリハビリなどでもっと長期の入院が必要なのだけど、このご時世にそんな悠長なことを言っていられない、ということでリハビリは家でやることになった。嬉しそうに窓の外を見つめる彼は、昨日まで寝たきりだとは思えないほど元気そうで安心した
「傷、残らないといいんだけど」
「まあ、大きいから残るかもしれない」
「……とにかく生きててよかった」
本音だった。もう彼に会えないのではないかという強烈な不安が俺を襲うことはもう無いのだ
「帰ったらバレンタインチョコ、作るから」
「あ、しまった。買いに行く途中で事故にあったから買い物が出来てない…」
「変なことで落ち込まないで!河村が生きてるだけで俺はいいんだから!」
「今日福良さんデレ多くない?」
「余計なお世話!」
どうでもいい会話が、楽しい。居心地が良くて、ここが俺の居場所だと示しているようにさえ感じる
「河村が庇った女の子、無傷らしい」
「…そうか、守れてよかった」
「無茶して、河村が死んだらどうするつもりだったの」
彼の伏せがちのまつ毛が揺れる。彼の表情からは何も読み取ることが出来ない
「…僕は死なない」
「死にかけたくせに」
「それはそうなんだが…」
「ほら……いくら誰かを助けるためとはいえ、もう無茶しないでね」
「時と場合によるなあ」
「ちょっと!?」
彼は幸せそうにくつくつと笑った。俺はきっとこれから家に帰って彼の退院を祝うためのバレンタインチョコを必死に練習するのだ。そんな日常が戻ってきたことがありがたかった
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作者名:めろんぱん | 作成日時:2020年12月10日 2時