僕が神に願うこと

願い8 ページ10

智樹side


誰かの声で目が覚めた。
働かない意識は無視して体は勝手に起き上がる。
やっとはっきりした目に映ったのは


「堀川、大丈夫か？俺のことがわかるか？」


知らない男の人だった。


「あ、ぅ、うあぁぁぁぁぁ！」


思わず叫んで逃げる。
叫んでしまってからしまった、と思う。


叫んだりしたら煩いと殴られるかもしれない。
勝手に逃げたらなんで動く？と蹴られるかもしれない。


どうしよう。どうしたら逃げられるんだろう。


いつの間にか男の人は前に立っていて、逃げ場なんて無いことを証明していた。


「落ち着け、堀川。
俺は長曽根虎徹だ。
覚えているか？」


申し訳ないけど、僕は堀川さんではないからわからない。


そう伝えると、別の男の人がすごい勢いで入ってきた。

何か言ってるけれど、怖すぎて何も入ってこない。


だけど、髪の長い人が、手を伸ばしてきて、


そのまま掴まれてどこかに連れて行かれるんじゃないかと思って、
ただひたすら謝る。

いつもみたいに。
ただ過ぎるのを待つ。


どれ位謝っていたのか。

人の気配が無くなった部屋の隅で今までのことを思い出そうとするが。


「思い出せない」



やられたことは思い出せるのに、
誰にやられたのかも、どんな人だったのかも、



そして1番重要な、兄弟の名前すら忘れていた。



「っ……兄弟」




唯一苦しみを分かち合った者の名前すら
僕にはない。





「だったら何があるんだろう？」







答えてくれる人はいない。

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