嘘【東方仗助】 ページ44
「進路、決まった?」
1999年、高校生最後の夏休みに起こったあの夢のようなかけがえのない時間。私は、まだその夢のような時間の余韻を引きずっているのかもしれない。
「ねぇ、聞いてんの?」
私の前でお弁当を食べていた友達が眉をひそめる。
「あ、ごめん。聞いてなかった」
「も〜!進路の話!決めたの?」
「ああ……まだ迷い中」
「まだ決めてないの!?いよいよやばいじゃない!アンタ、元々ぼ〜ってしてるとこあるけどさぁ…」
呆れた、そういって肩をすくめる彼女に苦笑して、私は底抜けに明るい秋晴れの青空に目を向けた。
「Aさん、どこに行くつもりなんすか?」
そう問いかけてきたのは、夏の一件以来仲良くなった仗助君だった。
「どこって……ああ、進路か。まだ迷ってる」
「え、大丈夫なんすか!?」
「ん〜、やばい…かな」
仗助君は私以上に動揺しているようで、困ったような顔をしている。
「なんか興味あることないんすか?」
「興味ねぇ……あ」
「え、なんかあるん─」
「海洋生物学。」
私の一言に仗助君がピシリと固まった。
「…え、なんでっすか?」
「なんで…って、まあ…元々、海の生き物好きなんだよね。イルカとかシャチとかさ。幸い、私は理系だからそっちの進路、目指せそうだしね」
そう言う間にも、仗助君は更に複雑そうな顔をした。
「あの…」
「ん?」
「海洋生物学、選んだのは……承太郎さんがしてるからですか?」
思ったよりストレートに切り込んできたな、と思う。
私だってバカではない。彼が私を好きなことは何となく察せているし、どうやら承太郎さんに私が憧れていると勘違いしているらしいこともわかっている。
だが、そのことを彼に教えてやるつもりはない。勘違いは勘違いのままでいいし、彼の好意に気づいていないと思わせておけばいい。
「…そうだね、それは確かにあるかも」
私はあえて意地悪を言う。
(仗助君、君はきっと私しか好きになれないと、本気で思っているのだろう)
だけど、私は君が思うよりもずっと「汚い」人間だ。どこにでもいる凡庸な人間だ。だから、君の思いに応えた末に、君に失望されて、捨てられることが何より嫌なのだ。
「承太郎さんみたいな研究者、憧れちゃうよね」
早く私を嫌ってもらえますように。
そう願いながら、私は今日も好きな人に嘘をつく。
You & I 【ナルシソ・アナスイ&ウェザーリポート】 リクエスト・いちご飴さん→←誰が為に【音石明】リクエスト・チリペッパーさん
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りと(プロフ) - ∴さて、どこへ行こうか。さん» リクエストありがとうございます!返品が遅くなってしまい、大変申し訳ありません<(_ _)>リクエストの方、承りました!ここではお話がいっぱいになってしまいましたので、続編の方で取り扱わせて頂きたいと思います(^^♪ (2021年8月23日 23時) (レス) id: 4416da2808 (このIDを非表示/違反報告)
りと(プロフ) - ?さん» ?さん、リクエストへの返信が大変遅くなってしまい申し訳ありませんでした<(_ _)>リクエスト承りました!ここではお話がいっぱいになってしまいましたので、続編の方で書かせていただきますヽ(*^^*)ノ (2021年8月12日 0時) (レス) id: 4416da2808 (このIDを非表示/違反報告)
りと(プロフ) - モカさん» 返信がとても遅くなってしまい、申し訳ありません!リクエスト、承りました! (2021年7月19日 22時) (レス) id: b238753ec9 (このIDを非表示/違反報告)
∴さて、どこへ行こうか。 - リクエストです。普段甘えない花京院典明の恋人(夢主)が甘える、という内容なのですがよろしいでしょうか?出来れば生存ifを希望します… (2020年11月6日 19時) (レス) id: a195df0bb5 (このIDを非表示/違反報告)
?(プロフ) - リクエなのですが、露伴先生と病弱な夢主が恋人関係なのですがその病弱な夢主が意外にも悪徳的なスタンドを持っている事を知って何があったのかと聞くと泣きながら過去にあった親からの虐.待などを夢主が語っていき、その日は思う存分甘えされるみたいなのをください! (2020年3月27日 16時) (レス) id: d243ef7454 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:りと | 作成日時:2019年1月9日 21時