車輪の唄【虹村億泰】 ページ36
ああ、もうすぐ朝が来る。
キィキィと悲鳴をあげて、錆び付いた車輪が俺たちを運んでいく。
「億泰、ありがとう」
「いいんだよ、俺がやりてぇだけだからよ」
「それに、いつもの事だったろ」と笑って、急に寂しくなった。ああ、もう『だった』になっちまうんだなぁ。
「…そうだったね」
Aの声もどことなく寂しそうに聞こえたのは、俺の気のせいだろうか。俺は黙ってチャリを漕いだ。その俺にもたれて、Aは黙っている。
高三の冬がもうすぐ終わる。
Aは杜王町からずっと遠い町の大学に合格して、そっちに引っ越すことになった。俺はこの町に残る。進路は決めていなかったが、トニオさんの店で料理を覚えんのも悪くねぇな、なんて思っている。だから、Aとは離れることになる。
「なぁ、向こうはどんなとこなんだ?」
「んー…杜王町とはそんなに変わんないかな」
Aの声を少しでも長く覚えていられる気がして、俺はひたすらAに話しかけた。興味のない話もふった。
(あ…)
夜明け前の杜王町の中で、駅に続く最後の一本道に差し掛かった。
(もう……)
最後の長い坂道を、ゆっくりと漕いで上がっていく。後ろではAが「がんばれ」なんて笑っている。俺は頷いた、けど、振り返るのは無理だった。情けねぇ話だけど、泣いてたから。
券売機で一番安い入場券を買う俺と、一番高い切符を買うA。改札を抜けてホームに入ると、ちょうどAの乗る電車がやってくる。
「億泰、じゃあ…行くね?」
「おう」
「私、頑張るよ。ちゃんと勉強してくる」
「おう、Aなら大丈夫だ!」
そう言ってやると、Aは笑った。俺の好きな、明るい笑顔だった。
その時、発車のベルが鳴る。俺は電車から離れて、閉まるドアを見つめていた。
「億泰──」
その顔を見て、俺は慌てて外へ飛び出して、自転車に飛び乗った。
(A……あいつ、いま……)
一瞬あげた顔は…あの時、あいつの目に光ったものは…
「A〜ッ!!」
まだ明け方の薄暗い線路沿いの道を俺は必死で走った。声なんて届くわけないけど、もしかしたら、と怒鳴っていた。近くの誰かが「うるさい」と声を上げてたが、それどころじゃあなかった。
必死で走って、走って、走っても、電車には追いつけない。少しずつ少しずつAの電車は離れていく。
「俺の事、覚えててくれよ〜!!」
離れていく電車に手を振って。
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りと(プロフ) - ∴さて、どこへ行こうか。さん» リクエストありがとうございます!返品が遅くなってしまい、大変申し訳ありません<(_ _)>リクエストの方、承りました!ここではお話がいっぱいになってしまいましたので、続編の方で取り扱わせて頂きたいと思います(^^♪ (2021年8月23日 23時) (レス) id: 4416da2808 (このIDを非表示/違反報告)
りと(プロフ) - ?さん» ?さん、リクエストへの返信が大変遅くなってしまい申し訳ありませんでした<(_ _)>リクエスト承りました!ここではお話がいっぱいになってしまいましたので、続編の方で書かせていただきますヽ(*^^*)ノ (2021年8月12日 0時) (レス) id: 4416da2808 (このIDを非表示/違反報告)
りと(プロフ) - モカさん» 返信がとても遅くなってしまい、申し訳ありません!リクエスト、承りました! (2021年7月19日 22時) (レス) id: b238753ec9 (このIDを非表示/違反報告)
∴さて、どこへ行こうか。 - リクエストです。普段甘えない花京院典明の恋人(夢主)が甘える、という内容なのですがよろしいでしょうか?出来れば生存ifを希望します… (2020年11月6日 19時) (レス) id: a195df0bb5 (このIDを非表示/違反報告)
?(プロフ) - リクエなのですが、露伴先生と病弱な夢主が恋人関係なのですがその病弱な夢主が意外にも悪徳的なスタンドを持っている事を知って何があったのかと聞くと泣きながら過去にあった親からの虐.待などを夢主が語っていき、その日は思う存分甘えされるみたいなのをください! (2020年3月27日 16時) (レス) id: d243ef7454 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:りと | 作成日時:2019年1月9日 21時