【短編集】恋のうたを聞きながら vol.3【ジョジョの奇妙な冒険】

愛を望めど【ホルマジオ】 ページ23

愛を望んだその日から。


　目が覚めれば、いつだって貴方は私を置いていなくなる。サイドテーブルに残された書き置きと、私の体に残る淡い紅が、貴方がここにいたのだという証拠。

(また…拒めなかった……)

　こんな事はいけない、と分かっていた。少なくとも、初め私が望んでいた｢真っ当なお付き合い｣とは程遠い。
　体に残る倦怠感と僅かな疼きに呻きながら、私はシーツの下から這い出した。脱ぎ散らかした服を集め、シャワーを浴びに行く。
　いつも通り、一人きりの朝を過ごす。

(…いつからこんなふうになったのだろう)

　初めはお酒での失敗。2度目以降は向こうから。
　でも、彼がこうして私を呼び出すのは、決して私への愛情から来るものでは無いのだと薄々勘づいてはいる。

(ほんと……馬鹿な女よね、私)

　心に残るわだかまりも流れてくれればいい、そう思いながら私はシャワーの勢いを強めた。



「…今から会えるか？」

　電話越しに聞こえる声に、私は一瞬体を強ばらせた。

「また…？最近は随分と積極的なのね、ホルマジオ」

「嫌か？」

　甘えるような調子を帯びた声に、私は小さくため息をついた。

「A？」

「…私が断らないこと、分かっているくせに」

「そうかもな。でも、俺はお前を愛してるんだぜ」

　｢Te amo｣…そう電話越しに囁く声に、彼を想う気持ちと同じくらいの憎しみが湧き上がる。
　どうせ私の気持ちには応えないくせに。どうせ面倒になれば捨てるくせに。愛してるなんて嘘のくせに。

「…分かったわ。いつも通り、ね」

　私は動揺を隠して電話を切った。電話を切った途端、涙が落ちた。

(ああ、あの人がわからない！)

　いくら言葉を交わし、体を交わしても、彼の真意はわからない。彼が何故まだ私を捨てないのかもわからない。私の気持ちに気がついていて、応える気など無い彼なのに。

(どうして私に愛を囁くの)

　そんな事を言われたらまた断れない。私の心の中にいる馬鹿な女が、貴方を離さない。

(せめて貴方の心を知れたらいいのに)

　そこに微塵も愛情などないことか分かれば、きっと諦めがつく。愛情なんてありはしないと分かったなら、私は貴方を捨てられる。
　そう思いながら、私はまた貴方が好きだと言った香りの香水を身に纏う。

(本当に馬鹿な女)

　愛なんてないとわかったとしても、きっと私はホルマジオを諦められないし、捨てられもしない。


彼の愛を望んだ私は初めから彼に負けている。

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