【短編集】恋のうたを聞きながら vol.3【ジョジョの奇妙な冒険】

横顔【岸辺露伴】 ページ15

横顔が美しいと思った。


「君の横顔が描きたい」

　そう言うと、彼女は少し驚いたように目をぱちくりとさせた。

「…私、ですか？」

「うん、君だ」

「いや…私よりもっといいモデルがいると思いますけど」

　困惑しているらしい彼女は、ふらふらと視線を泳がせている。

「そうだな。君よりも魅力的な人間は山のようにいる。が、僕が今描きたいのは『君の横顔』なんだ」

「…変な先生」

　彼女はクスリと笑うと「いいですよ」と微笑んだ。

「モデルなんて初めて」

　少し緊張した面持ちの彼女の横顔を見つめる。

(綺麗だ)

　正面から見た時はどこにでもいそうな普遍的な顔のくせに、横顔となるとグッと大人びる。

(だが─)

「…違う」

「…え？」

「いや…」

　スケッチを数枚分とったが、やはりどうにも違う。

(僕が見た時は…もっと違う顔だったような？)

　何度か首を捻っていると、不意に彼女が小さく声を上げる。なんだ、と顔を上げると見覚えのあるリーゼント頭が見えた。

「お、Aさん…と、ゲエッ！？露伴！？」

「クソッタレ仗助…」

　ムッとして顔を顰めると、仗助も負けじと顔を顰めてくる。

「邪魔するなよ。今、Aのスケッチをとってるんだ」

「いいでしょ、仗助くん」

　そう言って少し頬を緩めた彼女を見て、ドキリと胸がはねた。
　微かに色づく薄紅色の頬、柔らかく細められている瞳、美しい弧を描く唇。僕が「描きたい」と心から思った横顔がそこにある。

「ッ…！」

　慌てて紙とペンを掴むと、紙にペンを走らせる。

(ああ、ちがう！目の前のAはもっと美しい！)

　横顔を描いてみるが、どうにも違う。
　もっと美しいはずなのだ。その横顔を見ただけで、胸は痛いほどはね、横顔が見つめる先に嫉妬してしまう。その横顔を思い出すだけで、血液に火がついたかのように体が熱くなる。

(待てよ…これじゃまるで…)

　これじゃあまるで、僕がAに恋をしているようじゃあないか。

「…あ」

　小さく声を上げた僕に、Aが話をやめてこちらを向く。

「…先生？」

　首をかしげる2人に、僕は何も言わずに立ち上がった。

「あ、おい！」

「え、先生？」

「…帰る」

　僕は返事も聞かず、歩き出した。

(ああ、なんてことだ…)

　僕はあの横顔に恋をしてしまった。あの「東方仗助を見るAの横顔」に。



僕が恋に落ちたのは、僕じゃない人を好きになったAだった。

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