融ける弾丸【文豪ストレイドッグス】

飴玉が6つ ページ8

人より長めの己の髪をわしゃわしゃと洗い、ついでに先程までのネガティブ思考も洗い流す。
これで流れてくれるなら苦労は無いけど、そう思うしかない。
ぐるっと髪を纏め、湯船に足を浸けた。

思うことは大切だ。自分に強く言い聞かせることが出来る。

俺は「お兄ちゃん」。桜庭一樹としての俺なんて要らない。俺に必要なのは碧の兄で有り続けること。兄として碧を守り育てること。
誰一人とて守りきれなかったあの子の心を守る最後の砦になりたい。

そんな事を思いつつ肩まで湯に浸かる。
痣も湯の中に融けてゆらゆらと揺れていた。ふんわり立ち上る湯気よりも、いい匂いの入浴剤よりも、現在進行形で傷にしみているこの状況の方が気にかかった。めっちゃいてぇ。

でもまあ良いか。痛くないよりは痛い方が良い。痛いのは嫌いだけれど、痛くないと己が生きているのか分からない。一度痛覚が消滅させられたときは取り敢えず己の体のどこかを切った覚えがある。何なら今でも薄らとではあるが手首にはその傷も残っている。

痛くない、というのは己の加減を理解することが限りなく困難に成りうるから俺は嫌だ。
苦しくても、辛くても、やっぱり感覚が無いと持続的な生き方ができない。それは大変困るので、取り敢えず痛くても頑張る。

頑張れ、俺。目標の金額はまだまだ先だ！

不法労働もいい所な今の仕事だけど、ぶっちゃけ給料はいい。歩合制だけど、1人につき何十万って貰える。でも、それでも目標の金額には届かないんだけどね。あは。割に合わんぜふふ。

目標の金額は8億＋利子。凄まじい金額だよね。
因みに金利はトイチ。糞です。暴利です。巫山戯んな。取り立てられない代わりに碧がもっと働かされる。糞だよね、絶対。糞すぎるでしょ。利子がね、えぐいんだよ。これが。あはは。俺のキャパを軽々超える値段だからね。
あー、俺の肝臓売ったら何億かにならねぇかなぁ。まあならんだろうけども。それとも、左腕切り落として保険金騙しとろうか。

俺が払う義理はぶっちゃけ無いんだけど、でも、俺にはもう碧しか居ないから。碧の為なら俺は頑張れる。お兄ちゃん頑張る。もう死にものぐるいで頑張ってるよお兄ちゃん。ちょっとは褒めてもいいんだよ碧ー？

だからね、頑張る…から。

はやく、死ねないかなぁ。

''「…まだ死なせないよ」''

と、どこかで誰かが酷く慈愛に満ちた声で言っていたのを俺は知らない。

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