融ける弾丸【文豪ストレイドッグス】

飴玉が10個 ページ12

何時か必ず迎えることのできる「死」だけが俺の生きる目標だ。これは矛盾にはならない。なぜならば、人は死から始まり死で終わるからである。されどもそれを認めたくない人間は多く「生」に活路を見出す。それはただの苦行にしか過ぎず、苦しいことが嫌いな俺には無理な芸当である。

さて、こんな現実逃避は程々に現在の状況を確認しよう。端的に言うと、碧が攫われた。
繰り返そう。「パンドラの匣」を名乗る組織につい先程俺の弟が攫われた。
異能も持っていない、女に見紛う程の可愛い弟である。何故だ。何故攫った。利用価値皆無だろそんなの！！！

ごめんね、碧こんな不幸体質のにーちゃんで。お前が無事五体満足で帰ってきた暁には俺、ちゃんと死んでお詫びするからね。
たとえ、お前がそれを望まなくても俺は死ぬから。

嗚呼、どうしよう。どうしよう…。手を繋いでいた筈なのに、どうして…？

「答えは私が未来を視るから貴方には防ぎようが無かった、という事かな」

何処からともなく現れた黒髪の美しい女が笑む。それは何処か慈愛に溢れた…陳腐な喩えではあるが人では無い何かの様であった。

「何が目的だ」

自分の喉が震え、酷く冷たい声を紡ぐ。柔らかな夕暮れの日差しが急に温度を失った。

「目的…そうだね、目的…。それはね、或る人の救済だよ」

ふわふわとその美貌を綻ばせ女は告げる。それは、先程の人外の様な姿とはまるっきり違う恋する乙女の様な姿であった。

救済？その為に碧を攫った？どうして？

「嗚呼、碧ちゃんはちゃんと安全な場所に保護してるからね。これに関してだけは「パンドラの匣」を全面的に信用してね」

信用出来るか呆け。

女は、俺が忘れた男の事を愛しているのだと。愛しているから己は「彼」の為に悪役に成る、とそう嘯いた。ルージュで彩られた唇が蠱惑的な笑みを形作る。
全く…狂ってる。その「彼」とやらの所為で碧が危険に晒されるのならば俺はそいつを殺す。

「彼の心にトドメを刺したのは貴方だというのに。貴方はまたも彼を殺すのかな？」

お前の思考程度読めている、と言わんばかりの冷たい眼差しが俺を刺し貫く。
何だって？俺が？

「嗚呼、そうさ。貴方は何一つ覚えて居ないだろうけどね。まあそれが貴方の罪だ」

赤い瞳がすうっと細められ、禍々しい赤が強まる。俺は、その色を、赤を、見た事がある。すぐ側で共に笑いあった彼奴…彼奴？彼奴とは誰だ。

「混乱してるねぇ」

散々苦しめばいい、と吐き捨てて女は去っていった。

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