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──2年後──
「関ジャニ∞のドームツアーの開催が発表されました」
付けっぱなしになっていたテレビから流れるニュースに振り返る。
画面に映し出された5人組。
センターに立つのは微笑む忠義くん。
ふと蘇る夢のような甘い日々。
画面越しなのに私の心をギュッと掴んで涙が溢れそうになった───。
……なんて事は実はなかったりする。
「…さ、店開けよ」
おじいちゃんの残してくれたお店は、きっとおばあちゃんがこまめに手入れしていたんだろう。
すぐにでもお店が開けそうなほど綺麗だった。
昭和のレトロ感が漂う店内は少し手を加えれば、きっと良い雰囲気になる。
だけどどうにもやる気が起きなくて。
しばらくはダラダラと過ごす日々が続いた。
でも正直、生きるってお金がかかる。
いつか店を大きくするためにと貯めていたお金はあるけど、それは何かの時のためにとっておきたい。
とにかく、働かなくちゃ生きていけない。
だから、店を始めた事に大それた理由なんかなかった。
小さな町。
お客さんが多いわけではないけど、女1人がただ生きていけるくらいにはなんとか回っていく。
つまり、ここで店を開いたのは、生きる為…と言っても過言ではなかった。
「Aー」
店に下りて、扉の外側、見易い場所を選んで貼り紙を貼っていると名前を呼ばれた。
聞き慣れたその声は幼馴染のゆきちゃん。
横付けにした車から顔を覗かせた。
「何?今日貸し切り?」
貼り終えたばかりの紙を見て、珍しいじゃんと呟いた。
私はそれに軽く笑って返した。
「急にごめんね」
「いや、良いけど。車、どんな風に調子悪いの?」
「んー?なんかすっごい変な音する」
田舎暮らしには車が必須で、近所のおじちゃんがもう乗らないからと格安で譲り受けた車は思いの外年数が経っていた。
そのせいか、調子があまり良くない。
でも車なんて乗り慣れてないから、それがどんな風に調子が悪いのかと聞かれたらイマイチわからない。
ゆきちゃんが整備士さんで助かった。
ちょっと相談しようと電話をしたら、ちょうど出先だしそのまま見に来てくれると言ってくれたのは少し前の事。
「ちょっと見させて」
「お願いします」
車のキーをゆきちゃんに渡して、ペコリと頭を下げる。
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作者名:咲菜 | 作成日時:2022年8月16日 20時