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「ちょっと言い逃げやん。俺の印象悪くなるやろ」
「もともとそんなに良くないと思うから大丈夫」
「おい」
「それよりそこで話さないで。くすぐったい」
「それよりちゃうねん。もうええ大人やねんからもっと上手い事言えたやろ」
「ちょっかい出してくるから集中できなかったんです」
「もー、なんか行きたくなくなってきたわー」
「じゃあ止めよ？」
「止めるか。これ以上印象悪くしてどうすんねん」
印象悪いなんて電話中にちょっかい出されたほんの仕返しみたいなもので、両親が忠義くんの事を実際どう思ってるかなんて知らないけど。
でも思いの外気にしちゃった忠義くんはAのせいやでとブツブツ言っている。
相変わらず耳元で話し続けるの本当にやめて欲しい。
「…忠義くんほんとくすぐったいから。ちょっと離れて」
「むりー」
それなのに離れる所か腕の力が強くなる。
ちょっと体重まで掛けてくる。
地味に重いけど、これはきっとどんなにお願いしても離れてくれないやつだ。
「うちの親にも紹介せんとな。今度行こうな？」
半ば諦めた私に、忠義くんはそんな事まで言い出した。
一体この人は今日何回私の事を驚かせれば気が済むんだろう。
「ちょっと聞いてるー？」
アカン、今度は固まってもうたわ。とまた笑い声。
だってうちの親に挨拶したいって時点で衝撃だったのに、忠義くんの両親に紹介したいって。
ますます何？
……いや、うん。
何って事はないよね。
もう忠義くんは帰す気はなくて、私も帰る気がなくて。こないだは一緒に年取りたいなんて言ってくれた。
つまりはそういう事だ。
1人勝手に納得した私を待っていたかのように、忠義くんは一度腕を離して、私をくるりと反転させた。
さっきまで笑ってたのに、見上げた顔は今日も驚くほど優しい。
「頭の整理、出来た？」
「…うん」
「正直、いつなんて約束は出来ひんけどさ」
「うん」
「俺、Aと結婚したい」
ただ忠義くんの所へ戻って、側にいられるならそれだけで良いと思ってた。
結婚、なんて考えてもいなかった。
でも忠義くんがくれた言葉にこんなにも胸が震える。
「ちゃんと事務所にも話す。ファンにも納得してもらえるように頑張る」
もちろんみんなが納得するなんて無理だ。
忠義くんの顔が困ったように、少しだけ歪む。
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作者名：咲菜 | 作成日時：2022年8月16日 20時
