190.最終話 ページ43
確かに今日は時折車が通り過ぎる音が微かに聞こえるくらいで、誰もいないし、ここに忠義くんがいるなんてきっと誰も知らない。
忠義くんの視線が絡みつく。
その目に、金縛りにあったみたいに動けなくて、私も結局離れる事が出来ない。
「俺言うたよな?次はAの番やろ?」
きっと私の気持ちを聞くまでこのままなんだろう。
仕方なく諦めて、なんとか口を開いた。
「とりあえず、東京に戻ろうかなって思ってる」
「ん?何処に戻って来るん?」
「…だから東京…」
「ちゃうやん。どーこーに?戻ってくんの?」
「…え?えー…あの、えっと…?忠義くんのところ…?」
「そうなんや、ふーん」
半分強制的に言わせた私の答えにいくらか満足したのか、目の前の忠義くんの口元が少しだけ緩む。
「ほんで?」
「…良い、かな?」
「うん、ええよ。まぁ他に行くところないもんなぁ。で?ほんで?」
…ほんで?
忠義くんが聞きたいであろう、ほんで?の先に頭を巡らせる。
あの時はごめん。
自分勝手にワガママを言って忠義くんを傷付けたのに、会いに来てくれてありがとう。
ずっと待っててくれてありがとう。
まだ好きだって言ってくれてありがとう。
私も忠義くんの側にいたいよ。
忠義くんが一緒に年取りたいって言ってくれたの、本当に嬉しかった。
伝えたい気持ちは山ほどあって。
どれもきっと間違いじゃないんだけど。
でもなんて言ったら良いんだろう。
どう言ったらこの思いが忠義くんに伝わるだろう。
「…はよ言うてよ」
言葉を探す私に、痺れを切らしたように忠義くんが呟いた。
切なく響く甘い声。
忠義くんは今日も、ズルい。
結局どんなに考えてみても、今、私が単純に伝えたい気持ちは1つだけ。
忠義くんが待ってる言葉もきっと1つだけ。
絡み付く視線を受け止めて、しっかりと見つめ返した。
あの時の押し潰されそうな不安や焦燥感は当たり前だけど、微塵も残ってない。
大丈夫。
もう覚悟、決めるから。
だから…ねぇ、もう一度忠義くんのこと好きになってもいいですか?
これからも、ずっと好きでいていいですか?
小さく息を吸い込んだ。
「…忠義くん」
「うん」
「……好き」
またあなたにこの言葉を言える日が来るなんて思ってもみなかったけど。
目尻に皺を寄せて、それは嬉しそうに忠義くんが笑った。
おわり……?
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作者名:咲菜 | 作成日時:2022年8月16日 20時