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「…浮気者」
「そっちもやん」
「…知ってたんだ」
「さっきの電話でアイツが言うてた」
「私は別にただの飲み会のつもりだったし」
「そんなん俺やってただ飲んでただけやし」
「先輩本当に良い人だったなぁ」
「みさきちゃんめっちゃ可愛かったわぁ」
「!」
「俺の勝ち〜」
満足そうな笑い声がして、少しだけ腕の力が緩んだ。
その代わりに、ずいっと目の前に近づいた顔。
明らかに疲れが滲んでる。
「…疲れてるよね」
「当たり前やろ。仕事終わってそのまま来たんやから」
「…ごめん」
「ちゃんと断ったんやろな?」
「…うん」
「ん、ならええわ」
あぁー、ほんま疲れたぁ、と私から離れて大きく伸びをしてから、忠義くんは私の隣に腰を下ろした。
「…記事の言い訳聞く?」
「んー?いいや」
だって疲れた体を引きずって、ゆきちゃんと電話した後、心配になっちゃって明日まで待てなくて、そのまま飛んで来てくれたんでしょ?
それが何よりの答えだ。
「忠義くんは?聞く?」
「ん?ええわ。でももう無視はやめて」
「…うん。ごめん」
「今日は素直やん」
優しく微笑んで、そっと私の手を取った忠義くん。
「なぁ、今日はさすがに泊まってええやろ?」
「うん。さすがに泊まってって」
小さく微笑み返す。
「帰ろっか」
立ちあがろうとしたら繋がれた手がグイッと引っ張られる。
もう一度近付いた忠義くんの、整った顔。
その視線が真っ直ぐ私に注がれる。
「その前に、なんか言うことないん?」
きっと忠義くんが聞きたいのはあの夜言われた私の答えだ。
それはわかってるし、ちゃんと言おうと思ってた。
でも、目の前で催促されると妙な緊張感が迫り上がって来て。
「えっと…ごめん。ちょっと離れてくれない?」
「なんで?」
「こないだ、忠義くんとこうしてる所ゆきちゃんに見られちゃったみたいで…誰かに見られたら困るかなぁって」
誤魔化す私に、だからアイツは余計な事したんやなって1人勝手に納得する忠義くん。
ゆきちゃんが今日先輩を紹介した原因は主に週刊誌の方だと思うけど。
「別に困らん」
「困らんて…週刊誌に載った人の台詞とは思えないんだけど…」
「そもそも誰もおらんし」
その事はまるで関係ないとでも思っているのか、そう言い切って、全く離れようとしてくれない。
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作者名:咲菜 | 作成日時:2022年8月16日 20時