153.(side S.M) ページ5
……アホか。
そんな頼りないもんに縋ってどないすんねん。
泣くほど後悔するくらいやったら、なんで引き留めんかったん?
カッコ悪くてもええやんか。
何があってどんな話をしてそうなったなんて知らんけど、行くなって貫き通せば良かったやんか。
「……会いに行けばええやんけ」
もし切れてもうた頼りない糸を繋ぎ止めたいなら、自分で動くしかないんやから。
思わずこぼれた俺の言葉に、たつがまた目を開いた。
「そんな簡単な話ちゃうねん」
「簡単な話や」
「ちゃんと話して決めたんやって」
「そうなんやろうけど。もう2度と会わんて約束したわけちゃうやろ?」
「…そんなんただの屁理屈やん」
「そんなん得意やろ?」
「……別に得意ちゃうわ」
たつが少し迷ったように、もう一度カードに視線を落とした。
別にすぐやなくてもええと思うねん。
まだたったの半年や。
大事な人を思い出にするには短過ぎる。
でも取り戻すにはまだまだ間に合うやろ。
迷ってるうちにほんまに吹っ切れるかもわからんし、やっぱり会いたいと思うかもわからん。
その時は素直に会いに行ったらええねん。
「正直俺はAが向こうで元気にやってるなら大倉さんに言うつもりなかったんだけど」
「…元気じゃなかったんですか?」
「一応ニコニコ笑ってはいたけど、あんなつまらなそうに調理場に立つアイツ、初めて見たな」
「…つまらなそうに調理場に立つAは嫌やなぁ」
「…でしょ?俺も出来れば大倉さんに会いに行って欲しくて、今日は村上さんに無理なお願いしちゃいました。忙しいのにすみません」
若も怒る所か、後押ししてくれとるやん。
申し訳なさそうに頭を下げる若に、いつの間にか若自身も気持ちの整理をつけて、それでも変わらずAを大事にしているんやと、それはそれでホッとした。
「大倉さんが、嫌じゃなかったら…だけどね」
あとは本人がどうするか、や。
どっちにしてももう少し悩む時間が必要やろうから。
とりあえずAに開店祝いの花でも送ったるか。
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作者名:咲菜 | 作成日時:2022年8月16日 20時