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「わ!ちょっと人の電話で誰と話てんの?!」
トイレから戻るとゆきちゃんが私のスマホで誰かと話をしてるから慌てて止めた。
でももう通話は切れていたし、ゆきちゃんは悪びれる様子もなく。
「アイツだった」
当たり前のようにそう言った。
アイツってきっと忠義くんなんだろうけど。
何を話したかは教えてくれないし、代わりのように手渡されたスマホがもう一度鳴り始めた。
画面には忠義くんの名前。
「出るなよ」
強い口調と怒りを含んだ目に、出るに出れなくて。
私はただ表示される忠義くんの名前を見つめていた。
「あれ?2人何してんの?」
何処となく重い空気に包まれて困っていると、一緒にトイレに向かった先輩が戻ってきた。
ゆきちゃんの先輩はゆきちゃんの言う通り本当に良い人で。
営業マンだという仕事柄なのか、彼のもともとの性格なのか、話上手で思いの外楽しいお酒の席になった。
今も…目を吊り上げるゆきちゃんをたちまち笑顔に戻してしまう。
その事に少しホッとしたのも束の間。
「…じゃあ俺そろそろ帰るわ」
なんてゆきちゃんが突然言い出した。
「…え?帰るの?」
「うん。邪魔だろ?」
「全然」
ゆきちゃんの魂胆はわかってる。
でも2人にされても困る。
引き留める私を無視して、取り出した財布から一万円札を先輩に渡した。
そしてそそくさと1人勝手に帰って行った。
「たまーに、物凄く頑固だよね。ゆきって」
「…ですね」
苦笑いの私とは反対に、彼は最初の時のように柔らかい笑顔を浮かべた。
「もう少し、時間平気?」
「……はい」
紹介された男の人と2人きりなんて、忠義くんにバレたら大変だし、帰りたいくらいだけど。
2人になった途端帰るなんてさすがに失礼な気がして、小さく頷いた。
私も忠義くんの事責められないな、と心の中で苦笑い。
それでもやっぱりゆきちゃんの先輩の話は楽しくて、気付けばお酒も時計の針も随分進んでいた。
「…お酒強いよね」
「いえ…結構酔ってますよ」
「全然そうは見えないけど。どうする?まだ飲む?」
チラリと店内の時計を確認する。
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作者名:咲菜 | 作成日時:2022年8月16日 20時