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いや、別に良いんだよ？
私たちはもう付き合ってるわけじゃない。
忠義くんが誰と飲んで、誰と夜を過ごそうと私に口を出す権利なんてない。
もともとそれを放棄したのは私だ。
ただあんな夜を過ごしてしまった後だったから、ちょっと…いや、かなりショックだった。
もちろん忠義くんからの電話は何度もあった。
でも電話に出る気になれなかった。
メッセージも何回も届いた。
あんなん嘘やでから始まって、何にもないだとか、飲んで送ってっただけだとか書かれていたそれに一応目を通したものの、やっぱり返事をする気にはならなかった。
決して忠義くんの言葉を信じてないわけじゃない。
それぞれの事務所からも否定のコメントが出ていたし、きっと色々と事情があるんだと思う。
“深夜のBARから出てきた大倉は山本の肩を抱き寄せ、辺りを気にしながらタクシーに乗り込んだ”
なんてよっぽどの事情が…。
よっぽどの事情が……。
「あるか！！」
そんな事情あってたまるか！
私の声が虚しく店内に響く。
カウンターに座っているお客さんがビクッと肩を揺らした。
テーブル席のお客さんがチラッと振り返る。
…いけない。仕事中だった。
「…失礼致しました」
申し訳ありません、と頭を下げて、溜息を吐き出した。
それもこれも全部忠義くんのせいだ。
2年前、勝手に現れて。ついこないだはあんなに甘い夜を提供しておいて。
あっさりと他の女と…しかもあんな綺麗な女優さんを抱き寄せる写真撮られちゃって。
いくら私にその権利がなくても、自分勝手な怒りが沸々と湧き上がる。
いつもいつも私がバカみたいに忠義くんの言う事を聞くと思ったら大間違いだ。
ゆきちゃんから見計らったように電話があったのはそんな時だった。
あんなに文句言ってたのに第一声が大丈夫か？だった事には少し驚いた。
なんだかんだ言ってもゆきちゃんは優しい。
「…大丈夫。ありがとう」
「別に…ほら見ろって思ってるから礼言われても」
「ほら見ろって…確かに」
電話の向こうで笑い声がして、つられるように私も笑う。
お互い一応否定しているし、あの記事の何処までが真実なのかなんてわからない。
でも、世間の目から見たら…少なくともゆきちゃんにとっては忠義くんとあの女優さんは付き合ってるという認識なんだろう。
心配してくれてるのもほら見ろと思っているのもきっとどちらもゆきちゃんの本心だ。
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作者名：咲菜 | 作成日時：2022年8月16日 20時
