179. ページ32
私達を目撃してからきっとずっとモヤモヤとしてたんだろう。
おっかない顔したゆきちゃんは、私に言ってスッキリしたのか、すぐにいつもの顔に戻って。
じゃあ今日は帰る、ご馳走様。先輩に連絡しておく。
と一方的に言い放ってから帰って行った。
まだ会うとは言っていないのに、どうしても先輩とやらに会わせたいらしい。
会わせたいというよりは、私の気持ちをきっと忠義くんから引き離したいんだろう。
会ったところで自分の気持ちが変わるとは思えない。
例えば、別れたまま忠義くんに2度と会うこともなかったら、もしかしたら少しくらいは違ったのかもしれないけど。
もちろん忘れるつもりはなかった。
でも、いつきさんを思い出に出来たように、忠義くんじゃない誰かとの未来を想像する日が来たかもしれない。
だけど忠義くんはやって来た。
そしてあの夜、久しぶりに感じる忠義くんに、重ねた唇に。
真っ直ぐな言葉に。
頑なだった心は完全に溶かされてしまった。
うっかりでもなく、決して流されたわけでもなく、私もこの人と一緒に年を取っていきたいと願ってしまった。
だから他に目を向けるなんて、もう絶対に出来るはずがなかった。
それでもゆきちゃんの言葉が何度も頭を過ぎる。
──次は何処に逃げる?
考えてみれば、確かに私はあの時、結局忠義くんから逃げ出したんだ。
自分は傷付かないように色んな言い訳を並べて、そのくせに誰よりも忠義くんを傷付けた。
じゃあ次は?次になんかあったら…今度は逃げ出さない覚悟があるんだろうか。
全てを捨てて、どんなに傷付いても辛くても、側にいるという覚悟。
好きという気持ちだけじゃ同じ事の繰り返しになってしまう。
もっと強くならなきゃ、忠義くんの所に帰れない。
私に必要なものは、きっと覚悟だ。
だけど私の悩みなんてちっぽけで、まるで無駄だと嘲笑うように、現実は案外優しくない。
忠義くんのツアーも終盤。
終わったら会いに来てくれるって言ったのに。
気持ちを聞かせて欲しいって言った癖に。
関ジャニ∞大倉忠義、女優の山本みさきと深夜の密会──。
音を立てたスマホに手を伸ばすと、定期的に知らせるネットニュースで。
踊るその見出しに、目を開いた。
332人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:咲菜 | 作成日時:2022年8月16日 20時