176.(side T.O) ページ29
その後も穏やかに酒飲みながら、仕事の話やらメンバーの話やら。
こんなとこまで来てメンバーの話で盛り上がれるってどんだけ好きやねんって笑いながら。
そのうちにそろそろ帰ろか、そう言い出したのはヤスやった。
あんまり遅くなって彼女に心配掛けたないって、俺とおるのに心配も何もないと思うけど。
それだけ大事にしとるって事なんやろな。
「俺もうちょっと飲んでくわ」
「明日も早いやろ?」
「せやから、少しだけ」
「ん。ほなごめんやけど先に帰るな」
「おつかれ」
手を上げるヤスを見送って、カウンターの隅、1人。ほんま気分が良くて。
Aに電話しようかとスマホを取り出した所で、あの…と遠慮がちに声を掛けられた。
そこには去年ドラマで共演した女優のみさきちゃん。
ニコリと微笑まれて、思わず微笑み返した。
「久しぶり。偶然やなぁ」
「ですね。あっちで飲んでたんですけど…」
そう言って反対側のカウンターを指差して。
「もしかしたらそうかなぁって、すみません」
「ええよ。全然気付かんかった」
「お1人ですか?」
「さっきまでメンバーと飲んでたんやけど」
「仲良しなんですね」
「まぁ、うん。みさきちゃんは?」
「私も友達と飲んでたんですけど、急な用事で帰っちゃって」
「そうなんや。ほな座れば?」
多分普段やったらきっと誘わんかった思うんやけど、適度に回ったアルコールも手伝って。
座るように勧めると、彼女は素直に腰を下ろした。
「そういえば今やってるドラマめっちゃおもろいな」
「ありがとうございます。見てくれてるんですか?」
「後輩出てるしな」
「あ、お世話になってます」
「あ、こちらこそお世話になってます」
彼女が主演しているのは、オリジナル脚本の本格的なミステリー。
犯人が誰か話題で、考察がSNSで飛び交っている。
視聴者の1人としては、もちろん犯人が誰か気になるところで。
「なぁ、あれ犯人誰ぇ?」
「…え?そういう事聞いちゃいます?」
ふふ、と笑う彼女はさすがの女優さん。
綺麗な笑顔は薄暗いBARの中でもひと際目を引く。
うっかり見入っていると、彼女と目が合う。
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作者名:咲菜 | 作成日時:2022年8月16日 20時