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蘇る懐かしい記憶はいくらでもあって、ゆきちゃんに誘われて一緒に飲みながら。
あの時はあーだったこーだった、なんて話ていると時間はあっという間で。
気付けば時計の針が日付を跨ごうとしていた。
「わ、そろそろさすがに帰ったら?うちに来て午前様ははなちゃんに申し訳ないよ」
「…ほんとだ。やばっ」
チラリと壁に掛かる時計を見上げて、慌ててゆきちゃんが立ち上がる。
徐にポケットから財布を取り出した。
「俺こそ遅くまでごめん。いくら?」
「私も飲んじゃったし良いよ」
「そういうわけにはいかないけど」
「ドアもぶつけちゃったし。ちょっとだけだし、奢りって事で」
私の言葉にゆきちゃんはまた小さく笑みを浮かべた。
「…じゃあ、ご馳走さま」
取り出した財布を再びポケットに押し込んだ。
結局思い出話に花が咲いちゃって、本当に飲み足りたかっただけなのかはわからずじまいだけど。
見送ろうと私も立ち上がる。
だけど、何故だかゆきちゃんがそのまま動きを止めた。
不思議に思って見上げると、目が合って。
「…アイツの言う通り、俺が口出す事じゃないのは本当はわかってるんだけど」
さっきまでの笑顔は消えて、苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。
「もうやめとけって。おまえ帰って来てからずっとどんな顔してたか自分でもわかってるだろ?」
正直、誰かに忠義くんの事を話した事は一度もない。
だけどまぁ…それなりに晒されたんだもん。
友達は私が帰って来た理由を察してくれていたし、店にもちょくちょく顔を出してくれた。
その事については何を言うわけでもなかったけど、なんて事ない話でたくさん笑わせてくれた。
おかげで元気付けられたし、みんなが心配してくれている事はちゃんと伝わってた。
だから…ゆきちゃんの言ってる事もわかる。
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作者名:咲菜 | 作成日時:2022年8月16日 20時