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こないだ忠義くんと鉢合わせた時にかなり機嫌が悪くなってしまったから、なんとなく気まずくて。
奥さんの名前まで口にして、誤魔化すように質問を重ねた。
「平気。それより電話、誰?」
「あー…友達?」
「どうせアイツだろ。懲りねぇな」
…バレてる。そして凄い怒ってる。
ゆきちゃんの怒った顔に居た堪れなくなって、苦笑いが浮かぶ。
「…なんか用事だったんじゃないの?」
話を逸らす私にゆきちゃんがわざとらしく溜息を吐き出した。
「…別に」
「用もないのに来ないでしょ」
「飲み足りなかっただけ」
「あれ?うち閉店してるはずなんだけど」
「だから連絡入れたんだって」
「出なかったら帰るよね。普通」
…まぁ、一応電話もしてくれたみたいだし、幼馴染のよしみで少しくらいなら大目に見よう。
「何飲むの?」
「ハイボール」
「かしこまりました」
カウンターに座るように声を掛けるとすんなりと腰を下ろした。
なんとなくゆきちゃんの視線を感じながらハイボールを作る。
出来上がったグラスを置くと、静かに手が伸びてきた。
まるで一杯目を飲むようにゆきちゃんが一気にそれを流し込む。
「飲んで来たんじゃないの?」
「うん、飲んでた」
「にしては良い飲みっぷり。あ、なんか食べる?」
「…柿ピー」
真面目に答えるゆきちゃんに思わず吹き出した。
「まだ好きなの?」
まだお互い学生だった頃、お金もないしって友達集めて家で飲んだりもしたけど、ゆきちゃんはいつも柿ピーつまんでた。
懐かしい。
「ごめん、柿ピーはないよね。今度用意しておく」
笑い続ける私に、ゆきちゃんもふっと笑みをこぼす。
「よく一緒に飲んだよなぁ」
「地元離れて寂しかったし、暇さえあれば集まってたよね」
「Aは普通に就職するかと思ってたんだけど」
「そうだね。そのつもりだった。でも人生何があるかわかんないね」
「じいちゃんのお葬式の後、お店継ぎたいって、酔っ払ってよく言ってたの覚えてる?」
「覚えてる。お店っていうか、おじいちゃんの意志を継ぎたかったんだよなぁ。懐かしい…ゆきちゃんは家継ぐって決めてたもんね」
「だな…色んな話、したよな」
「ほんと…懐かし」
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作者名:咲菜 | 作成日時:2022年8月16日 20時