170.(side T.O) ページ22
押し付けた唇はすぐに離したけど。
Aは予想通り困ったように目を潤ませた。
正直に言うと、嫌いで別れたわけちゃうし、散々俺を忘れられへんようにしたから、Aの気持ちが変わってるとは思ってなかった。
だからと言って、店もあるのにすぐにどうこうできるとも思ってなかった。
Aが納得するまで待つつもりやってん。
でも今朝スッピンのAを見て、少しだけ気持ちが揺れた。
いや、Aは相変わらず可愛いで?
別にめっちゃ老けたわけでもないねん。
それでもやっぱり嫌でも年はとってしまうんやなって思ってもうた。
なぁ、俺らあと何年このままなん?
あとどれだけ待ったらAに触れられる?
そう思ったら、急に待つ時間が惜しくてなってくる。
「…ええ加減、戻ってきてや」
至近距離のまま、潤むその目を見つめ返して。
久しぶりに近付いた距離のせいで、いつもみたいに冗談に出来ひん俺の本音。
「…ほんまのおばあちゃんになってまうで?」
「…それは嫌かも」
「せやろ?もう2年以上も我慢しとるやん」
「…そうだね」
繋いだ手が、重なった唇が、きっとAの事も素直にさせてる。
「…もうええやん」
もちろん簡単な事やない。
店もある。多分またAを悩ませる。
でももう縛り付けるだけじゃ足らん。
近いようでこの距離はやっぱり遠い。
もっと側におって欲しい。もっと一緒にいたい。
「好きやねんて」
「…うん」
「帰って来てや。俺の側におって」
ずっと一緒におったその先で、ほんまにおばあちゃんとおじいちゃんになってもうたなって2人で笑おうや。
「一緒に年取っていきたい」
半分願いのようなその言葉にAが目を開いた。
潤んだ大きな目がますます潤んでもうて。
ぎゅっと唇を噛み締めた。
「考えておいてくれへん?次に来た時でええから、Aの気持ち聞かせて欲しい」
「……うん」
小さく頷いたAの唇を優しく塞いだ。
腕の中にAを閉じ込めて。
一度だけで足りるはずなんてないから、暗闇に隠れて。
今までの分を埋めるように。
何度も何度もキスをする。
応えるようにAの手が背中に回って、ぎゅっと俺の服を掴んだ。
あの日止まってしまった俺らの時間がようやく動き出した。
332人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:咲菜 | 作成日時:2022年8月16日 20時