168.(side T.O) ページ20
俺の代わりを肌身離さず、連れてんの？
…どんだけ俺の事好きやねん。
どないしよ…アカン、顔が……。
「ちょっと変な顔しないで！違うよ？違うからね！」
「別に何にも言うてへん」
「顔が言ってる！」
緩んだ顔は簡単には直らなくて、多分ニヤニヤしとる俺を見て、Aが呆れたように諦めたように溜息をついた。
「……お願いだからニヤニヤしないで」
「無理やな。ほんま素直やないんやから」
そうやねん。
ほんまは俺の事大好きな癖に、Aは毎回飽きずに拒絶の言葉を口にする。
別れを切り出した罪悪感なのか、店を開いた事への意地なのか、そこまではわからんけど。
「なぁ、ご飯2人分作って？」
「…なんで？」
「なんでって、たまには一緒に食べたいやん」
「お客さんと一緒にご飯食べたらおかしいでしょ」
「お客さんとデートしといてよう言うわ」
ほんまにどの口が言うんやろ。
今日もやけど。
散々カウンターに並んで一緒に飲んだし食べた。
あの頃はまだそれこそただのお客さんやったわ。
忘れたとは言わせへん。
なんだかんだ言うても結局2人分の料理が並ぶ。
いつもお願いしてる鯛茶漬け。今日はだし巻き卵と肉じゃが付き。
付けていたエプロンを外して、Aが隣に腰掛けた。
いつもの調理服やなくて出掛けたまんまやから、付き合うてた頃みたいに、一緒に夕飯食べてるみたいやけど。
「次はツアー終わってからやな」
「もう来なくて良いんだけどね」
「そんなん言うて待ってるやん」
「待ってないから」
「最近ほんま可愛くないで」
「ほんと、ほっといて」
あの頃とは違ってつれない言葉が返ってくる。
でも、それもAなりの強がりやっていうのはわかってる。
だから可愛くないとは言うても俺ももちろん本気やない。
多分それはAもわかってる。
つれない言葉とは裏腹に、顔は穏やかな笑みが浮かぶ。
「…まだ早いし、食べ終わったらちょっと散歩でもする？」
「ん？なんで？」
「今日なんで？ばっかやな」
「なんで？って聞きたくなるような事しか言わないからじゃない？」
「…素直に行くって言え」
いちいち抵抗せんでええねん。
どうせ最後にはええって言うんやから。
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作者名：咲菜 | 作成日時：2022年8月16日 20時
