167.(side T.O) ページ19
「お金、ちゃんと返すね」
「なんでやねん。いらんわ」
「でもこんな事してもらう理由ないし」
帰りの車の中、勝手に支払いを済ませた俺に不満そうにずっと文句言うとったAが、とうとうそんな事言い出した。
アホか。
好きな子喜ばせたくてやってんのに、なんで払わせなアカンねん。
「もううるさい。いらんて言うてる」
次言うたらキスすんでと脅かしたらようやく黙った。
それはそれで悲しいんやけど。
チラッとAを横目で見ると、納得出来へんのか不満そうな顔で、窓の外を眺めとった。
なんやねん、もう。
さっきまでご機嫌やったやん。
エステから戻ってきた時は気持ち良かったって喜んでたやん。
露天風呂最高って嬉しそうに浴衣着て、めっちゃ可愛く笑ってたのに。
なんやねん、アホ。
黙ってそっぽ向くAに、俺も少なからずむっとしてもうて。
流れる音楽だけが静かに響いた。
しばらくお互い無言のまま。気付けばもうすぐAの店。
せっかく楽しく出掛けたのに、このままはさすがに嫌やから。
ちょうど信号待ちで止まった車。
助手席に視線を移すと、今度は目が合うた。
「…ご飯、食べてくでしょ?」
先に口を開いたのはAやった。
少し困った顔して笑っとる。
もともとそのつもりで準備してたやろうし、断る理由もないから素直に行くと答えた。
店に戻って来るとちょっと早いけど、とAが準備に取り掛かる。
いつものようにカウンター越しにAが俺のためだけに料理する姿を眺める。
2人の時間を邪魔されたくなくて、貸し切りにして欲しいと頼んだのは実は一回だけやねん。
それやのに毎回貸し切りにしてくれるし、なんだかんだ言うてもAは俺を待ってんねん。
俺の代わりのクマを大事にして。
いつも見える所に座らせて、クマと一緒に俺の事……って、おらんやん。
先輩避け頼んだのに、いつのもの場所におらんやん。
アイツは何をサボっとんねん。
「…クマおらんけど」
「ん?クマ?あぁ…朝忠義くんがいきなり来るから、下ろしてないだけ」
チラッとクマの定位置に視線を向けて、いない事に気付いたのか、当たり前のように言うた。
それっていつも部屋に持って帰って、毎回下ろしてるって事なんかな。
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作者名:咲菜 | 作成日時:2022年8月16日 20時