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165. ページ17

「…そういえば、ツアー始まるんだね」



気を逸らそうと、こないだテレビで流れたニュースの話題を口にする。

確かそろそろ初日を迎えるはずだ。



「頑張ってね。DVD出たら買おうかな」

「見に来る気はないん?」

「お店あるから」

「暇な癖に」

「それ言っちゃいけないヤツ」



サングラス越し、ちらっと視線を移動させた忠義くんと目が合った。

ふっと笑ってまた前を向く。



「生で見たら惚れ直すで?」

「じゃあ生では絶対見ないでおく」

「惚れてる事は否定せんのや」

「そういう意味じゃないし」

「素直やないなぁ」



下らない言い合いしながらも車は順調に進む。

でも結局何処にも寄る事もないまま。

ずっと運転していたから疲れたんだろう、ちょっと休憩させて、とそこから少し車を走らせてから車を止めた。

目の前には、雰囲気漂う老舗旅館。

ちょっと休憩させて、で寄る所ではないと思うんだけど。





「お、ええ部屋やん」



当たり前のように案内された部屋に入るなり、忠義くんは部屋の中を見回して満足そうにそう言った。

そして当たり前のように寛いでいる。

私はというと、慣れない高級旅館にもだけど、この状況が全く理解出来なくて、逆にそわそわと落ち着かない。

そんな私にまるで面白いものでも見るように、忠義くんの目が向けられる。



「ごめんやけど、日帰りやで?」

「そういう事じゃなくて!」

「慌て過ぎやって。とりあえず座り?」

「待って、本当に全然わからないから!」

「わからんでええから。ほら、おいで?」



ポンポンと隣を叩きながら、穏やかな声に誘われる。

理解は出来ないままだけど、立っていても仕方ないから、テーブルを挟んだ向かいに腰を下ろした。



「…なんでやねん。おかしいやろ」

「何にもおかしくないと思うけど」



ちょっと脳内がプチパニックを起こしているけど、この状況で忠義くんの隣に座るのは間違ってる事くらいはわかる。



「まぁ、ええわ。ビックリした?」

「ビックリしたとかじゃないよ。何これ?急にどうしたの?」

「どうもせえへん。休憩、言うてるやろ?Aが何処にも寄らせてくれへんかったから、腹減ったし、ご飯にしよか」



私の質問には答えているような、はぐらかしているような返事が返ってくる。

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作者名:咲菜 | 作成日時:2022年8月16日 20時

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