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164. ページ16

隣に腰を下ろして、顔をじっと眺めて。

思わずその髪の毛に手が伸びた。

ピクリと反応して、うっすらと忠義くんが目が開く。



「…準備出来た?」

「うん。お待たせ」

「んふ、可愛い」



眠そうな目を私の全身に走らせて、満足そうに笑う視線が首元で止まる。



「…ほんま可愛い」



グッと顔を近付けて、忠義くんの手がネックレスを掬い上げた。

嬉しそうな顔でそれを弄り出す。


なんだかんだ言っていても、忠義くんは案外ちゃんと私との距離を保ってくれている。

だからこんなに近付くのは久しぶりで。

触れる指先が、どうにもくすぐったい。



「どっか行きたい所ある?」

「どっかって、急に言われても。だいたいその辺歩いたらバレちゃうでしょ?」

「変装するし平気やろ」

「…いくら田舎でも平気じゃないと思うよ」



そのまま続けられる会話。

それはまるで恋人の頃のように、甘い距離。



「…忠義くん、近い」

「先に触ったのAやん」

「……う」

「うってなんやねん」

「……寝てるかと」

「こんなとこでグッスリ寝れるか」

「…そうだよね」

「それに今の言い方やと寝てたら何してもええみたいに聞こえるで?」

「待って、違う!」

「そうなんや。何してもええんや。へぇ…そうなんやぁ」



忠義くんはニヤニヤしながら、ネックレスから手を離した。

徐に立ち上がる。



「行こか。とりあえずドライブしよ」



1人どんどん店を出ようとするから、慌てて後を追いかけた。



「ねぇ、なんか悪い事考えてない?」

「考えてないわ。Aの寝顔なんてもう見られへんやろ。アホ」

「……そうだね」



妙に納得して、当たり前の事なのに少しの寂しさが広がって、振り返った忠義くんも寂しそうに、もう一度アホと呟いた。





平日だし車もさほど多くはなくて、窓を開けると気持ち良い風が頬を撫でる。



「あ、道の駅やってぇ。寄ってみる?」

「人が多いからダメでしょ」



「足湯あるやん」

「…あるね」



「なんか動物園あるって。行ってみようやぁ」

「……行かない」



ご機嫌に歌を口ずさんでいる忠義くんは、何か看板を見つける度にいちいち反応する。

その度に私に却下されて、だんだんと不機嫌になっていく横顔。



「…なんなん?どっこも行く気ないやん」

「どっこも行けないでしょ?」

「大丈夫やって、もー」



運転しながら、忠義くんがむっと口を尖らせた。

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作者名:咲菜 | 作成日時:2022年8月16日 20時

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