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隣に腰を下ろして、顔をじっと眺めて。
思わずその髪の毛に手が伸びた。
ピクリと反応して、うっすらと忠義くんが目が開く。
「…準備出来た?」
「うん。お待たせ」
「んふ、可愛い」
眠そうな目を私の全身に走らせて、満足そうに笑う視線が首元で止まる。
「…ほんま可愛い」
グッと顔を近付けて、忠義くんの手がネックレスを掬い上げた。
嬉しそうな顔でそれを弄り出す。
なんだかんだ言っていても、忠義くんは案外ちゃんと私との距離を保ってくれている。
だからこんなに近付くのは久しぶりで。
触れる指先が、どうにもくすぐったい。
「どっか行きたい所ある?」
「どっかって、急に言われても。だいたいその辺歩いたらバレちゃうでしょ?」
「変装するし平気やろ」
「…いくら田舎でも平気じゃないと思うよ」
そのまま続けられる会話。
それはまるで恋人の頃のように、甘い距離。
「…忠義くん、近い」
「先に触ったのAやん」
「……う」
「うってなんやねん」
「……寝てるかと」
「こんなとこでグッスリ寝れるか」
「…そうだよね」
「それに今の言い方やと寝てたら何してもええみたいに聞こえるで?」
「待って、違う!」
「そうなんや。何してもええんや。へぇ…そうなんやぁ」
忠義くんはニヤニヤしながら、ネックレスから手を離した。
徐に立ち上がる。
「行こか。とりあえずドライブしよ」
1人どんどん店を出ようとするから、慌てて後を追いかけた。
「ねぇ、なんか悪い事考えてない?」
「考えてないわ。Aの寝顔なんてもう見られへんやろ。アホ」
「……そうだね」
妙に納得して、当たり前の事なのに少しの寂しさが広がって、振り返った忠義くんも寂しそうに、もう一度アホと呟いた。
平日だし車もさほど多くはなくて、窓を開けると気持ち良い風が頬を撫でる。
「あ、道の駅やってぇ。寄ってみる?」
「人が多いからダメでしょ」
「足湯あるやん」
「…あるね」
「なんか動物園あるって。行ってみようやぁ」
「……行かない」
ご機嫌に歌を口ずさんでいる忠義くんは、何か看板を見つける度にいちいち反応する。
その度に私に却下されて、だんだんと不機嫌になっていく横顔。
「…なんなん?どっこも行く気ないやん」
「どっこも行けないでしょ?」
「大丈夫やって、もー」
運転しながら、忠義くんがむっと口を尖らせた。
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作者名:咲菜 | 作成日時:2022年8月16日 20時