雄英脱出【死柄木弔】 (ページ27)

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満たされないページ27

「おかえりなさい」

　「うん。」

「体育祭みたよ。負けちゃって残念だったね。」

　「うん。」

家に帰ると早々、母親が出迎えた。今日はいつもより優しい。俺がヒーロー科でヒーロー志望をしていたから。でもきっと観てないんだろうな。机に乱雑に置かれた酒の空き瓶やらを見てわかる。

この人は俺がヒーローになることを望んでて、ヒーローを目指す俺を育ててる。俺自身に興味もクソもない。俺は人形だ。

「がんばったね。ヒーローみたいだったわ。」

　「うん。」

お互い嘘の笑顔で向かい合って、一方通行の会話を聞き流す。部屋に戻ろうとすると呼び止められる。笑顔なのは俺だけになってた。母親は口を開く。声だけは優しかった。

「ヒーロー、なれるといいね」

　「…うん」

なりたいなんて言ったことない。ヒステリックなこの人にそんなこと言ったら俺はどうなってたかな。

頭を撫でられる。冷たかった。

体育祭で感じた高揚や温度が全部吸い取られるようで気持ち悪かった。急いで部屋に入って鍵を閉める。冷たさの残る頭を掻きむしる。気持ち悪い。気持ち悪い。

「そんなに掻きむしってはいけませんよ」

　「！？」

電気のついていない部屋の中。俺1人のはずなのに声がする。俺に話しかけてる。知ってる声だ。

「死柄木弔が待っていますよ。」

　「え」

暗い部屋は更に暗闇に包まれてとうとう黒一色になった。もやもやとした濁った先をかき分けると優しい光が目に入った。ワープしたみたいだ。

ツヤツヤとしているカウンターに綺麗に並んだボトル。薄明るい照明に高い椅子。そこに座るのは灰色の髪の男だった。息を呑む。

「アヤトくん」

決して優しい声じゃない。温度も感じられない。だけど俺だけに突き刺さるその声が聞こえた。

「…体育祭観てた。」

　「は、ハハハ、死柄木さんだ」

死柄木さん。いつもの余裕綽々で俺を圧してくる感じの雰囲気がしない。俺はこっちの方がなんだか好きだ。俺が影響してこうなっていると考えるとなんだか脈が力強くなる気がする。

　「死柄木さんに見て欲しくて頑張った。俺、俺…」

「アヤトくんが好き勝手やってるの、全部見てた。」

嬉しい。だけど満たされない。死柄木さんに見てもらうって目標を達成した俺はもうこれだけじゃダメなんだ。

　「俺以外も見ました？」

「…この写真の、アヤトくんのクラスメイト…」

死柄木さんはキモい手を顔につけ直して、クラスメイト、緑谷出久の写真を俺に示した。

　「そっか」