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「…蒼井」
先生が目だけを動かして私を見上げた。
凄まじい痛みと戦うその瞳に、心がぎゅっと絞られるように引っ張られた。
「先生…大丈夫、ですか?
私はどうしたらいいですか?」
口から出た声は泣きそうに震えていた。
先生の方が、泣きたいくらい辛いはずなのに。
掴まれた先生の手に力が籠った。
「何も、しなくなていい。
そばに…いてくれるだけで…」
その言葉は、心の中の何かから私を解き放ってくれたような気がした。
ずっと昔からある、鎖のような、重たいなにか。
「…分かりました」
頷いて、掴まれた先生の手を握り返す。
先生を痛みの衝動が襲う度に、繋がれた手が痛いくらいに握られる。
その痛みの何倍も先生が苦しんでいるんだと思うと、涙が出そうだった。
しばらくして、先生の手が私から離れた。
なんとか痛みをやり過ごしたんだろう、先生は壁に背をもたれて、肩で息をついた。
「…先生、大丈夫ですか?」
「…ああ、なんとかな」
先生は私から目を逸らすと、唇を歪めた。
眉を下げて、瞳に翳りが生まれる。
「かっこ悪いとこ見られちゃったな」
俯いて笑う先生から、目が離せなかった。
1回でも瞬きをしたら、次に目を開けた時、先生の姿が魔法のようにフッと消えてしまう気がした。
それくらい先生の存在は脆く見えた。
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さな×りお(プロフ) - 緑えいたぁーさん» えぇ…ありがとうございます! めっちゃ嬉しいです更新頑張ります! (2019年5月3日 20時) (レス) id: e17c1230c5 (このIDを非表示/違反報告)
緑えいたぁー(プロフ) - さなさんとりおさんの書くお話が大好きです!いつも楽しみにしています!もしかしたら歳近いんじゃないかな〜って思ったりしたりしなかったり…御二人のファンとしてずっーと応援してます! (2019年5月2日 22時) (レス) id: 847f0c09f1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さな×りお | 作成日時:2019年4月24日 22時