5-8 ページ24
駐車場には、黒塗りの車が1台駐まっていた。
先生は車のロックを解除して、私を助手席に促した。
乗り込む私に傘を傾けてくれる先生。
先生の肩に雨が降り注いで、少し濡れてしまった。
私の後に先生も乗り込む。
バタン、車のドアが閉まる音。
その音で、狭い空間に2人きりだということをはっきりと感じさせられる。
先生はミネラルウォーターを飲んだ。
こくこくと動く形のいい喉仏から、なんとなく目を逸らす。
「道案内できるか？」
「えーと、とりあえず雪ヶ丘歩道橋まで行ってください」
「了解」
エンジンが入る重低音を聞きながら、なんか大人っぽいな、と密かに胸をときめかせた。
手馴れた手つきでレバーを握る所とか、
無造作にハンドルに置かれた手とか、
真っ直ぐ前を見つめる視線とか。
全部が大人っぽいなと思った。
学校を出た車は、車線の多い通りに出る。
夜前のひんやりと湿った空気をかき混ぜるように、沢山の車が行き交っていた。
「わざわざ送ってもらってごめんなさい」
言ってから、あ、また謝っちゃった、と首をすくめた。
そんな私を気配で察したんだろう、先生は笑いながら言う。
「そういう時は�爐△蠅�とう�瓩任いい鵑世茵�
「…ありがとうございます」
「どういたしまして」
先生は微笑んだ。
淡い藤色の花がほころぶような、綺麗だけど儚い笑顔だった。
その儚さに、やっぱりもうすぐ死んでしまうんだ、この人は、と目の奥が再び熱を持つ。
「なあ」
俯く私に、先生が声を掛けた。
「蒼井、兄がいたんだな」
意外だった。
先生は、生徒のそういうデリケートな部分に踏み込んで来るようなタイプじゃないと思っていた。
「蒼井が感情を失くしたのは、その兄が原因なのか？」
手を、差し伸べられた気がした。
私が自分の過去と、痛みと向き合う、手助けをしてくれようとしていると思った。
「…多分、そうだと思います」
私は顔を上げた。
目の前のフロントガラスに、細かい氷雨が降りかかっている。
そのちっぽけな雨量の為にワイパーが仕事をしていた。
真っ赤な一ひらの花弁が、脳裏に浮かんだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 170人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
さな×りお(プロフ) - 緑えいたぁーさん» えぇ…ありがとうございます！ めっちゃ嬉しいです更新頑張ります！ (2019年5月3日 20時) (
レス) id: e17c1230c5 (このIDを非表示/違反報告)
緑えいたぁー(プロフ) - さなさんとりおさんの書くお話が大好きです！いつも楽しみにしています！もしかしたら歳近いんじゃないかな〜って思ったりしたりしなかったり…御二人のファンとしてずっーと応援してます！ (2019年5月2日 22時) (レス) id: 847f0c09f1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：さな×りお | 作成日時：2019年4月24日 22時
