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◆◇◆◇◆◇


昇降口に立つと、雨の匂いがした。

外から流れてくる冷気に身を震わせながら、先生が来るのを待つ。

雨足はだいぶ弱まっていた。

無数の銀の針のように、細かい雨が校庭に降り注ぐ。

「蒼井、お待たせ」

2つの鞄と傘を手に、先生は姿を見せた。
1つは先生の鞄。もう1つのは、私の鞄だ。

「あ」

私の両手はからっぽだった。
気が動転していたせいか、鞄の存在をすっかり忘れてしまってた。

「すみません…」

申し訳なくなりながら、先生から鞄を受け取る。

「じゃあ駐車場行こうか」

「え?」

間抜けな声を出してしまった。

「駐車場?」

「送るって言っただろ」

「送るって、車でってことだったんですか」

何故だろう、先生が車を持っているイメージがなかった。

「ほら行くぞ」

傘を差して、雨の中に出て行く先生。

私は昇降口に残ったままだ。

先生が怪訝な顔で私を振り向く。

「蒼井? どうした」

私は制服の裾をぎゅっと握って、言ってみた。

「傘、持ってないです」

嘘だった。
本当は、鞄の中に折り畳み傘が入っていた。

先生は雨の中で、傘の下で、黙って立っていた。

そして無言のまま、私の方に傘を傾けてくれた。

「ありがとうございます」と小声でお礼を言って、傘の中に入る。
折り畳み傘がバレなくてよかった、と心の中でほっとした。

でも。

あとでよく考えたら、そんなはずはなかった。

先生が私の荷物をまとめる時、
鉛筆とか消しゴムとかを鞄に入れる時、
先生は鞄の中に入った折り畳み傘を見つけているはずだった。

多分、車までの僅かな距離だったし、折り畳み傘を開く手間を考えただけだろう。
それでも、気づいた時はちょっと嬉しかった。

1つの傘の下、私と先生は肩を並べて歩く。

雨が傘にぶつかる音が響き、2人分の足音が響く。

「さっきはごめんなさい」

私は謝った。

「…何が?」

「1番辛いのは先生のはずなのに、好き勝手言って」

「蒼井が謝ることはないよ」

それなら先生だって謝ることはなかったのに、と心の中で呟く。

「ごめん」という言葉は、時には言う側の為にあるものなのかもしれない。

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さな×りお(プロフ) - 緑えいたぁーさん» えぇ…ありがとうございます! めっちゃ嬉しいです更新頑張ります! (2019年5月3日 20時) (レス) id: e17c1230c5 (このIDを非表示/違反報告)
緑えいたぁー(プロフ) - さなさんとりおさんの書くお話が大好きです!いつも楽しみにしています!もしかしたら歳近いんじゃないかな〜って思ったりしたりしなかったり…御二人のファンとしてずっーと応援してます! (2019年5月2日 22時) (レス) id: 847f0c09f1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:さな×りお | 作成日時:2019年4月24日 22時

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