長雨之刻《疑》 ページ45
「ああ、くそ……こんな重苦しい話をするためにお前さんを探していたんじゃないんだ」
官兵衛は枷に繋がれた手で身振り手振りをする。
「お前さんを置いて行ったのは悪かった。別に役に立たないからとかそういう意味じゃなくてだな……小生はAが＿＿」
ここではっきり伝えてやった方が彼女も安心するのだろう。
だが、真っ直ぐに見つめてくるAの視線に射られる。
鯉のように口だけがパクパクと動いて、更に時間が経つにつれ覚悟に揺らぎが生じる。
「とっ、とにかくだな！どんな無理難題だろうと手柄を挙げれば一日自由の身になれる！お前さんは何がしたい？こういうのはな、計画したもん勝ちだぞ！」
柄にもなく心臓が激しく脈を打って、結局誤魔化してしまった。
幸い、Aが気づいている様子はない。
「何がしたい、と言われましても……」
「花見なんかどうだ……ってこの雨じゃほとんど散ってしまうか。城下町に買い物へ行ってもいいぞ！
「では、昔のようにまた色んなことを教えてください。なるべく人気のない道を散歩しながら草木や鳥の名前を教えてください」
「……そ、そんなのでいいのか？」
「はい」
「お前さん、本当に変わってるな」
嬉しそうに笑うAにつられて、頬が自然に緩む。
手の隙間から零れそうな幸福を、一滴も零さぬよう大事に味わう。
……この時間が、ずっと続けばいい。
＿＿けれどそれは、決して叶わぬ夢だと分かっている。
「ヒヒッ、不幸の星の元で生まれた主がAをあのような顔にさせるとは驚きよ、オドロキ。三成が見ていようものなら、主らはまとめて幸を抱いたまま心中出来たかもしれぬなァ？」
官兵衛が書庫を去ると、音もなく現れた吉継が彼を冷やかす。
「……好いた女を殺そうとする男なんざ、たかが知れてる」
「Aはな、健気に主を想うておった。三成に奇妙な誓いを立てさせ、純潔を守っていた。何も知らぬ三成はAのためと誓いを守っていた。全く、我にはてんで理解し難き光景であったが」
吉継は独特な笑い声を出して、ただ一人この歪な三角模様を傍観者として楽しんでいる。
しかし、とうとうそれにも飽いたのだろう。
「＿＿さて暗よ、鬼退治に興じるとするか」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 33人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「ヤンデレ」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
三楓(プロフ) - 天智就佐さん» コメントありがとうございます！病んでる三成様を書いているといつも以上にキーボードが捗るので（笑）まだまだ頑張ります(*´∀｀*) (2020年4月4日 20時) (
レス) id: ed4329dbeb (このIDを非表示/違反報告)
天智就佐(プロフ) - 更新頻度が早くて内容が神なんて尊敬します！これからも頑張ってください！ (2020年4月4日 17時) (レス) id: b2ae4e5a5c (このIDを非表示/違反報告)
三楓(プロフ) - 霧雨ルカさん» コメントありがとうございます(*´∀｀*)更新頑張ります！ (2020年3月30日 19時) (レス) id: ed4329dbeb (このIDを非表示/違反報告)
霧雨ルカ(プロフ) - 三楓さんの小説好きです！これからも頑張ってください！！応援してます！ (2020年3月30日 13時) (レス) id: 58200a85c8 (このIDを非表示/違反報告)
三楓(プロフ) - 紫月姫さん» コメントありがとうございます！たまには病みかけているところから書きたいなと思いまして...（笑）自分のペースで更新頑張ります！(*´∀｀*) (2020年3月28日 21時) (レス) id: ed4329dbeb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：三楓 | 作成日時：2020年3月23日 22時
