愚者の夢《朧》 ページ40
竹から生まれた女の子の話。
その子は子どもがいない老夫婦の下ですくすくと育った。
やがて美しくなったその子は帝に見初められた。
しかし彼女の正体は月の住人。
いずれ月に帰らなければならないと告げた彼女を帰らせるまいと人々は月からの使者を撃退しようとする。
しかしその奮闘虚しく、自分を育ててくれた老夫婦との別れを惜しみながら、最後は天の羽衣を着せられ、老夫婦のことを忘れて月へ帰ってしまう。
悲しい話だった。
だが同時に羨ましくもあった。
何もかも恵まれた彼女は地上で嫌なこともたくさん経験した。
天の羽衣でそれらも忘れてしまえるのなら、それはそれで……。
「A！」
名前を呼ばれて廊下の方を振り返る。
月明かりに照らされた廊下には、息を切らした三成がとても悲しそうな顔をして立っていた。
「……石田様？」
「勝手に出歩くな！貴様はずっと気を失っていたのだぞ！」
怒鳴っているのに、何故この人は泣きそうな顔をしているのだろう。
一歩一歩近づく足が、段々速まる。
Aの目の前に立った三成は、首についた痕を痛々しく見つめながら小さく呟いた。
「……私が、殺したと思った。貴様が気を失った瞬間、焦って、後悔して、何度謝っても貴様は目覚めず……。私は、どうすればよかったんだ……？どうすれば……Aは……私だけを……」
混乱している三成の手は僅かに震えていた。
Aは小さく咳き込んで月を見上げる。
「起きてしまったことは仕方がありません。もう私は気にしていないので石田様もどうか気になさらないでください」
「何故そんなに淡々としていられる……。貴様は、私に殺されかけたのだぞ？」
「意外ですね。石田様は人を殺めることに躊躇いがないお方だと思っていましたが」
「A、何を言っている……？たかが敵の雑兵と貴様の命を同等に思うはずがないだろう！私にとって貴様は唯一無二の存在だ！貴様はッ、違うのかっ……」
「違う、とは？」
「貴様も、私を唯一の存在だと……そう思ってはくれないのか？」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 33人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「ヤンデレ」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
三楓(プロフ) - 天智就佐さん» コメントありがとうございます！病んでる三成様を書いているといつも以上にキーボードが捗るので（笑）まだまだ頑張ります(*´∀｀*) (2020年4月4日 20時) (
レス) id: ed4329dbeb (このIDを非表示/違反報告)
天智就佐(プロフ) - 更新頻度が早くて内容が神なんて尊敬します！これからも頑張ってください！ (2020年4月4日 17時) (レス) id: b2ae4e5a5c (このIDを非表示/違反報告)
三楓(プロフ) - 霧雨ルカさん» コメントありがとうございます(*´∀｀*)更新頑張ります！ (2020年3月30日 19時) (レス) id: ed4329dbeb (このIDを非表示/違反報告)
霧雨ルカ(プロフ) - 三楓さんの小説好きです！これからも頑張ってください！！応援してます！ (2020年3月30日 13時) (レス) id: 58200a85c8 (このIDを非表示/違反報告)
三楓(プロフ) - 紫月姫さん» コメントありがとうございます！たまには病みかけているところから書きたいなと思いまして...（笑）自分のペースで更新頑張ります！(*´∀｀*) (2020年3月28日 21時) (レス) id: ed4329dbeb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：三楓 | 作成日時：2020年3月23日 22時
