お願い、早く堕ちてきて。【灰谷蘭】

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おかしい。ここ最近のオレは、やはりどう考えてもおかしい。

基本的にどうでも良いことで電話されるのが嫌いで、女との長電話なんて最悪の類に入るくらい面倒に思っているオレが、素っ頓狂で意味不明な理由で電話を掛けてきた女との通話中、口角が上がりっぱなしになるなんて。

明日のデートに着て来る服？どうだっていいのに、そんなこと。どんな服で来たって、初めて見る彼女の私服に目を奪われてしまうに決まっているから。きっとノーブランドだし、オールシンプルで、パーフェクト清楚みてえな服を着て来るに決まっているのに、そう確信している自分も気持ち悪かった。

VIPルームに入って来た細身の女と、ゆったりとソファで会話している最中に、ポケットが振動した。無視しようか迷った挙句ながら見で名前を見た瞬間、腕の中にあった体温を押し退けて電話に出てしまった。幻覚かと迷う隙もなかった。間違って掛けてきたのか？とかちらりと過ぎった気がするが、あまり覚えていない。


『あ、……ら、蘭さん、こんばんは』


相変わらず耳通りが良く、スッキリと高く細い声は、いつもより上擦っていた。オレの声も上擦ってしまったかもしれない。このオレが、電話如きで、何を一喜一憂しているんだと思ったが、正直、明日何を着て行けば良いのかと問われた時は、床を転げ回りそうになった。もう少し酒が入っていたらそこらをのたうち回ったことだろう。

なんてばかで、ズレていて、素っ頓狂で、無知で、世間知らずで、……かわいらしい、生き物なんだろう。何かが染み出してくるみたいに、胸の内が温くて仕方ない。気持ちが悪いのに、なんとなく心地よい。正直、あまり体験したことの無い感覚で、戸惑った。きっと今の顔を、竜胆にでも見られたら、心底気味悪がられるのだろうなと思った。おそらく、嫌いな奴の訃報でも入って来たのか？などと誹謗中傷されることだろう。


『あの、蘭さん。本当に、大したことのない用事で電話なんてかけてしまって、すみません』

「別にいーって。オマエは気にしすぎ」


ま、オマエ以外からだったら無視してるか不機嫌になってたけどな。


『ありがとうございます。それでは、その……おやすみなさい。蘭さん』


心臓の太い血管の中で、大量の血が蠢いた気がした。とくり、と音を立てて。


「……おやすみ」


また明日、とか付け加えたらいいのか。

などと考えた時には、もう通話が切れてしまっていた。仕方がないので、オレは竜胆にも連絡をせず、そのまま家に帰ってしまった。こんな時間に帰宅したのは、久しぶりだった

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