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「ここらへんでいいかな？」と思い立ち止まって少し待っていれば聞きなれた低いエンジン音が聞こえてきた。エンジン音で判断できるようになっている自分に驚きながらその音の方向を見ていればやっぱり見覚えのあるバイクが近づいてきていた。
目の前で停車し、ヘルメットを外して、いつも通りの何気ない感じで「おつかれ」なんて言ってくる優吾くん。それに私も「おつかれ」と小さな声で返す。
高「急だったけど…本当に大丈夫だった？」
「それはこっちのセリフだよ。急なのに、ありがと」
高「急な提案したのはこっちだよ。…って、喉調子悪い感じだった？」
「まぁ、それなりに。…負担をかけないようにするのは慣れてるから、気にしないで」
高「なら、いいんだけど…。はい、ヘルメット」
「ありがと」
会話をしながらガサゴソと取り出したヘルメットを手渡される。前回は酔っていた、とはいえもう一度つけたことのあるもの。前よりはスムーズに付けられるよ。
つけ終わった、と思ったらもうすでにバイクにまたがっている優吾くん。自分の後ろをポンポンと叩いて、言葉にはせずに「乗って」と伝えてくる。それに従って、バイクにまたがる。
高「喉、その調子みたいだし、最近ちょっと寒くなってきてるし。早めに帰ってこよ」
「捕まって」と付け加えられた言葉にうなづきながら、前のように優吾くんのお腹に腕を回す。…酔ってた時の記憶、だけどさぁ、これ緊張すんだよ。酔ってても緊張するのにシラフって…。絶対前よりも緊張してしまってる。
高「動き出していい？」
「うん。お願いします」
高「動くから、もうちょい強めに捕まっててね」
そんな私の緊張を知らない優吾くんはもっと強く捕まれという。そうしないと危ないのも分かるから、こっそり深呼吸をして腕に力を込める。
それと同時くらいにバイクがゆっくりと動き出す。目的地、は話してないけど、多分前と同じところ。前に「また連れてきてほしい」って言ったし。
私は喉のために言葉数と音量を小さくしているし、優吾くんは運転しているし。走り出したバイクの上でそんな二人がうまく会話できるわけもなく…というか、なんとなくどちらも言葉を発さないままバイクは進んでいく。あの場所ってこの道を通っていくんだ…。なんて思いながら到着まで危なくないように優吾くんにしっかりとつかまっていた。
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作者名：天羽
| 作成日時：2022年11月30日 3時
