50 ページ1
.
「いらっしゃいませ」
高「あ、声良くなってる」
「あぁ…やっと良くなりました」
高「だいぶ長かったっすよね。でもよくなってよかったです」
さすが病院の薬。効くもんだ。病院に行って薬を飲み始めてすぐ、喉が完治した。すんなり声は出るし、歌うときに苦もない。大きさも出せるけど、今後のことを考えてバイトでは今まで通り小さめの声で。
「いつも通り」に戻った状態で高地さんに会うのが久しぶりで、高地さんも私の喉の変化に気付いてくれた。声の出ない時期に会ったときに大分心配をかけてしまったので、少しは安心させられたのではないか、とホッとする。
いつもと同じ周り方で店内を見てまわる高地さん。店内もいつも通り、特に人がいるわけでもないからレジ周りで出来ることをしていく。
高「お願いします」
高地さんの動き、気にしてたはずなのに。いつの間にかレジに来ていた高地さんに急いで対応する。謝りながらレジに商品を通していく。
…ただそれだけの作業なのに視線が気になる。
視線を手元から高地さんの方に向けるとニコニコと人当たりの良い笑顔で私を見ていた。
「なんか、ついてます？」
高「ついてないですよ？」
「…いや、すごい視線感じたので」
高「あー、いや、すみません…」
何かあったのかと思って聞けば恥ずかしそうにしだす。その様子がなんだか可愛らしくてちょっとだけ口角が上がってしまう。
「何でもないならいいんです」
そんなに多いわけでもない商品を通し終え、代金も一緒に伝える。高地さんは「あー…」とか「いや、」とか言いながら財布を開く。
高「喉、よくなったからかな。なんか元気に見えて…よかったな、と思いまして」
財布に視線を下ろしたまま言われた言葉に一瞬体の動きも頭も止まってしまう。
元気に見えるんだ、私。それなら大成功。
「…健康が一番、ですからね。」
高「確かに、そうですよね」
ピッタリに出されたお金をレジにしまう。レシートを渡せばふと視線が合う。
高「気を付けてね、喉」
「…気をつけます」
さっきと同じ、ニコニコとした顔で言われ気まずくなってしまう。視線を逸らしながらの返事は違和感なかっただろうか。
気まずさは伝わらなかったようで、レシートを仕舞った高地さんは商品の入った袋をもって「頑張ってください」なんて優しい言葉を残して帰ろうとする。
でも、それは入店音に遮られてしまった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 353人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：天羽
| 作成日時：2022年11月30日 3時
