No.44 ページ44
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しばらく経った頃、黙々とクレヨンを動かす感宮がどこからか聞こえてきたドアの開く音にパッと顔を上げた。
俺も感宮と同じように顔を上げれば、黒い影が二つあり眉をひそめる。多分、人の形をしてる。
でも感宮には何も見えていないのか、悲しそうな顔をしてまた俯いた。じゃあ、あれは一体何なんだ？不思議に思い、また影を見ようとすると、それは俺を包むかのように大きく広がっていた。
『ママ…？お仕事の人にいじめられたの？』
「何のことー？もう、Aったら変なこと言わないで？」
『だって、ママ。女の人にトイレで嫌なこと言われてる』
「今日は疲れたのかな？寝よっか」
『ママ、私のこと気持ち悪いとか言わないで？』
「っ……、なんで、そのこと知ってるの？なんで…私の考えてること分かるの？」
うっすらと目を開ければ、少し離れたところで母親に縋っている感宮の姿があった。心配している彼女とは別に、母親は恐怖に埋め尽くされた顔をしている。
「いやっ…！やめて！！私の心を読まないで！！…惨めな思いは嫌なの…！」
そう叫んだ母親は、感宮を突き飛ばして部屋を出て行った。違う、あれは個性のせいなんだ。感宮は何も悪くねぇ。…そう言いたくても、何故か声が出てこない。
手を必死に伸ばして追いかけようとすると、また景色は変わり、今度は母親を支えながら歩く父親が、感宮を冷たい目で見下ろして告げる。
「この化け物め。もう二度と、私らの前に現れるんじゃない。お前は私らの娘なんかじゃない」
それは幼い子供からしたら、絶望的な言葉だった。
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作者名：空涼
| 作成日時：2019年5月10日 19時
