No.32 ページ32
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「八百万どうした？A、何があったんだ」
「轟さん…」
『っ……』
嫌なタイミングで屋上にやって来た轟くん。そして私に向けられる澄んだ瞳の視線に、息が詰まりそうになる。
何故なら、似たようなことを過去にも経験したことがあるからだ。
あれは小学一年生の頃。
独りぼっちの私に初めて話しかけてくれたのが八百万だった。その大きな瞳は輝きを放ち、将来ヒーローになるのだと語ってくれたのは腑に落ちないけれど覚えている。
『いいなぁ、百ちゃん。いろんなモノ出せるんでしょ？』
「えぇ、そうですの！Aちゃんの好きなものは何？」
『んーくまのぬいぐるみ！』
「分かりましたわ！…んーっ、はい！出来ました！」
『わぁ！もふもふのくまさん！ありがとう！』
抱きしめるには少し小さいくまのぬいぐるみ。それでもこんな私の為に出してくれたから、とても嬉しかった。…それと同時に羨ましかった。
「Aちゃんの個性って何でしたっけ？」
『えーと…そんなすごくないから恥ずかしいや』
その時の私は自分の個性が他人を苦しめることを理解していて、今この瞬間も個性は発動していたけれど、それを伝えることはなかった。
せめてもの救いは、八百万の考えていたことが楽しいとかヒーローの憧れとか単純で可愛いものだったこと。
しかし時が経つにつれ、周りの人はどこからか私の噂を嗅ぎつけコソコソ話すようになっていく。
感宮に触るとやばいことが起きる、感宮と目を合わすと心の中を見られる、そのせいで親に捨てられた…など。
それはもう完全に言いたい放題で、唯一の友達だった八百万ともあることがキッカケで、私たちの間に破裂が走ったのだった。
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作者名：空涼
| 作成日時：2019年5月10日 19時
