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「ほんとに入っていいんですか…？」
いくら貸切で他の客がいないからといっても男湯の暖簾を潜るのは精神的にかなり抵抗があったが、トガちゃんに半ば強引に腕を引かれてここまで来てしまった。
声を潜めながら脱衣所を通り抜け大浴場への引き戸を前に一同息を飲む。
「荼毘、やれ」
「だってよトゥワイス」
「俺かよ！」
流れるように転嫁されたトゥワイスさんが引き戸に手をかける。
なんだか見てはいけないものを見るような気がして私は恐る恐る弔さんの背に隠れながらもごくりと唾を飲んだ。
頑なに明かされなかったミスターの素顔が、ついに白日の元に晒される。
「ご開帳だ！観念しろ！！」
ガラッと思い切り開かれた扉。
漂う湯気が視界を覆い、数秒ののち晴れたときそこにいたのは…
「…え？なになに怖いどしたの…？」
黒い短髪にミステリアスな瞳。
短い眉を寄せて驚きと怪訝な顔でこちらを見ている、控えめに言っても美形の男。
「っざけんな！イケメンかよ！」
微妙な距離感のまま数秒互いに見つめあっていた沈黙を破ったトゥワイスさんはビシッとミスターらしき男性を大袈裟な動きで指を差した。
一方、湯船に浸かっていたらしい当人は状況を把握しかつ私とトガちゃんまでいることに気づきさらに戸惑いの声を上げている。
「…なんかガッカリですぅ」
「チッつまんねぇ」
ハゲだの額に肉だのと勝手に予想大会していたせいで盛大な肩透かしを食らったと言わんばかりに白けた様子のトガちゃんと荼毘さんは文句を垂れる始末。
たしかにこちらでハードルを上げすぎてしまったがために目の前の美形男性にはなんともコメントしづらい。
かくいう私も、普段の紳士的な振る舞いと自身をおじさんと呼ぶ様子からもっと年配でダンディなイメージをしていたものだから予想を大きく裏切られた。
「…やめだ、解散」
「えぇ！？なんで俺ガッカリされてんの！？ちょっと！」
ここに来るまでの勢いはどこへやら。
弔さんの一言で各々がため息を吐きながら踵を返す背中にミスターの悲痛な叫びがぶつけられた。
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作者名：さかさま | 作成日時：2022年4月20日 22時
