ひとつ屋根の下で月を眺める

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それからは涼子の隣に引っ付きながらみんなの会話を聞いていたけれど、私にはどうも居心地が悪かった。
会話の中身は仕事や夢、家族や恋人の話。
どれも、私には人に話せるほどの物語がなかったのだ。

27歳で、コンビニアルバイト。
夢もない。家族仲は悪く、もう何年も話していない。
恋人とも、最近別れた。

呆れるほど、空っぽだった。





同窓会は程なくして終わり、ホテルのエントランスで二次会に行く人の輪が出来ている。



涼子「行こうよAも」

「……私はいいよ。明日も早いし」



誘ってくれた涼子には悪いけど、どっと疲れが押し寄せていた。
二次会なんて、とてもじゃないが行く気にならない。



「涼子〜！ 行くよ〜！」

「ほら、呼ばれてるよ。楽しんできて」



涼子の背中を押して見送る。
気を張って伸ばしていた背筋を少し丸めて息を吐いた。


早く帰ろう。



深澤「悪い！ 俺も帰るわ！」



後ろから聞こえた声に、思わず立ち止まって振り返る。
輪の中から出てきた深澤くんは、両手を合わせてみんなに謝っていた。
周りからは「ええ〜」とか、「なんで？」なんて不満の声が次々と聞こえてくる。



深澤「いやぁ、連れが待ってるからさ」

「なにそれ〜女？」

深澤「内緒〜」



「じゃ、ごめんな！」と手をあげてこちらに歩いてくる深澤くんをぼうっと眺めていた。


そりゃあ、深澤くんだもん。彼女くらいいるでしょ。



深澤「Aさん」

「っあ、こんばんは」


「ん…？こんばんは？」と目を細めて笑う深澤くん。
「帰ろ」と言って歩き出すその背中を慌てて追いかけた。






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