ひとつ屋根の下で月を眺める

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1ヶ月ぶりに来た築古めのオンボロアパート。
ここで元彼と住んでいた思い出がよみがえる。
浮気をされていたというのに、思い出すのは楽しかったことばかり。
終わるのは、あんなに呆気なかったのに。



「……早く荷物取りに行こ」



気持ちが沈みそうになって頭を振った。
階段をあがってインターホンを押してしばらく待つ、中でバタバタと生活音が聞こえた。
がちゃりとドアが開いて顔を見せた元彼。



「……え、A」

「…………、」

「今来たのかよ……」

「…、だって荷物取りに来いってそっちが、」

「だからって、いきなりすぎんだろ」



面倒そうに頭を掻いて、「ちょっと待ってろ」って部屋へと戻っていく。
残っていた荷物をキャリーケースに詰めてくれていたみたいで、「ほら」と手渡された。



「……、あ、ありが、」

「じゃあ、元気でな」



お礼も言わせてもらえずに、バタンと閉められたドアの向こうでまた生活音が聞こえる。

微かに見えた、元彼の肩越しに女の姿。
浮気相手だとすぐにわかった、私と住んでいた家にもう住み着いてるなんて。
バタンと扉が閉められる前にその女が私を見て笑っていた。
可哀想なものを見るような目で。


心がポキッと折れた気がした。
下唇をぎゅっと噛んで涙を堪えるけれど、震えて視界が滲んでいく。

階段を下りようと足を向けた時、階段下に見知った顔があった。



深澤「おかえり」

「………なんで、」

深澤「ほら、キャリーちょうだい」



軽快に階段を上ってきては私のキャリーケースを奪い取って、また軽快に下りていく。
私もつられるように階段を下りる。






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