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時計の短針がとっくに十二という数字を過ぎた頃、暗い部屋の中でAはぱちりと目を開いた。
一度だけ眠そうに欠伸をすると壁にかけてある時計に目をやる。
「(いつの間にか寝ちゃったんだ)」
ふと、肩にかかる重たい感触に気が付いた。
視線を向ければ、そこには双子の兄である炭治郎がAの肩に頭を預けて幼い顔で眠っていた。
「炭治郎の寝顔って、ずっと変わらないね」
誰に宛てた言葉というわけではない、ただの独り言がこぼれた。
「(風邪ひくし、ブランケットでも持ってこないと)」
そんなことを考えながら炭治郎を起こさぬようにと、慎重にその場から立ち上がる。
けれど突然、Aの体が何かに引っ張られる。その衝撃で思わず体勢を崩しそうになった。だがなんとか足で踏ん張りをつけてバランスを保つ。
Aが後ろを振り向けば、眠り続ける炭治郎がAの手をしっかりと握りしめている様子が目についた。
繋がれているその手を見てAは悲しそうに眉を下げた。
「炭治郎……」
眠っている兄に向かって呟く。
「もう、離していいんだよ……」
「もう、いいんだよ……」
眠っているのだからAの言葉が聞こえているはずがない。けれど、その言葉とともに炭治郎の頬をきらりと光る何かが流れた。
Aはあいている方の手でそれを拭うと、まだ目を覚まさない彼に向かってぽつりと呟いた。
「ごめんね」
そう呟きながら自分の手首を掴む炭治郎の手をゆっくりと解こうとする。しかし、彼はAの手をとてつもなく強い握力で掴んでいた。
その力の強さに、なぜか鼻の奥がツーンとした感覚になる。乾いていた瞳がだんだんと潤いを得ていくのが自分自身でもよくわかった。
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作者名:さぬやぎ | 作成日時:2020年4月13日 13時